Days too happy

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「……うるさいなあ、もう」  草壁樹里(くさかべじゅり)は不機嫌極まりない低い声を出しながら、ベッドの掛け布団からもぞもぞと細い腕が伸ばした。当てずっぽうに枕元を手のひらで叩いて、何度目かで目覚まし時計のベルのスイッチにヒットして、しんと静かになった。  今は、たぶんというか絶対に午前七時だ。目覚ましをセットしたのは樹里自身だった。  ああ、起きなくちゃ、一限目に間に合わないのは、わかってる。でも起きれない。眠たくて仕方がない。理由は単純、単なる寝不足だ。 「くそう……」  だが寝付いたのは未明近くなのだ。だから眠くても仕方がない。あと十分だけ寝過ごすことを許可しよう。樹里は自分の中で自分を甘やかして、二度寝を決め込んだ。  冬の朝、布団の中のほんのり湿気た温もりは、天国としかいいようがない。眠気と温もりは、樹里の脆い決意をほろほろと崩してしまう毒だ。 「おはよう、樹里。時間だよ」  布団を頭から被っている樹里の背中を、誰かがポンポンと優しく叩いた。爽やかな声。樹里は寝たふりで無視した。 「ほーら、そろそろ起きなきゃだよ。一限目の必修、間に合わなくなるよ」 「……やだ。あと10分したら起こして……」 「うーん。かわいい樹里のお願いだから、聞いてあげたいのはやまやまだけど、こればっかりはねえ」  樹里の寝起きの悪さは毎度のことだ。目覚ましをセットしても起きれなくて、彼が起こしてくれることに樹里は甘えていた。機嫌の悪さへの対応にも慣れたもので、くすくす笑っているだけだ。 (むかつくなあ。誰のせいだと思ってんだよ!)    樹里は布団からのそのそと顔を出した。眠たげな眼差しで睨んでもちっとも怖くないのは分かっていても、ぎろりと睨んでしまう。視線の先にいるのは、超絶爽やかイケメンだ。彼は綺麗な顔に美しい笑みを浮かべて、愛おしそうに樹里を見つめていた。  彼の名は、笠田祥平(かさだしょうへい)だ。  樹里とは、同い年で、同性の恋人だ。  眠りについた時間は明け方と同じ時間帯なはずなのに、祥平は何時に起きたのか知らないけれど、すっきりと目覚めている。既にパジャマ代わりのTシャツとハーパンは着ておらず、今すぐ登校できる格好だ。  樹里の寝不足は、昨夜、久しぶりに祥平とセックスしたせいだった。  樹里と祥平は大学生だ。バイトに学業にと忙しい二人は、同棲しているとはいえ、すれ違う日々が続いていた。  樹里が塾講師のバイトを終えて帰宅したのは、午後十時過ぎだった。珍しく祥平が先に帰っていた。  彼は飲食店でバイトをしていて、帰宅時間はいつも深夜を過ぎるから、具合が悪いのかと樹里は心配したのだが。 「樹里と早くエッチしたくて早退したんだ」  悪びれずに言う祥平に、樹里は呆れて開いた口が塞がらなかった。 「ねえ、しよ?」 「ば、ばか。すぐ出来るわけ無いだろ。風呂、風呂に入らせて」 「やーだ。待てないよう」  据え膳食わぬは男の恥、と抱かれる立場の樹里が思うのはちょっと違うかもしれないけれど、祥平が甘えてくれるのは正直うれしくてたまらない。  樹里だって、二十歳の健全な男子大学生だ。  せっかく祥平がやる気になっているのに、それをはねつけるほどお高く止まっていない。
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