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「淳真様、玄関までどうぞ」
声すら出せない俺に、みさをは最後の確認のような言葉をかける。返事は必要ないと言うように
ギギギギギ………
みさをの言葉に被って聞いたばかりの音が響いた。
顔だけ振り向くと
―――――――バタン。
「! おいっ」
力任せにみさをを押して、距離を取れば足元がおぼつかなくて……
「よく出来ました。淳真様にお怪我させるだなんて考えられません」
メイドが数人がかりで、がっちり俺を支えていた。
恥ずかしい………。
俺、女に簡単に支えられるくらいなのか?ちょっと、落ち込むかもしれない。
「…………」
「淳真様、ここの全てが貴方のもの。お話しを聞いて、お話しをして……とにかく、お屋敷に入ってくださいな」
じっと睨んでも、全く効果がないし、門は閉められてその前にメイドがしっかり並んでるいるし。
「話しだけ、したら、帰る」
「……全ては貴方のもの」
門から玄関までは、かなりの距離があった。その間にも桜が吹雪となって、時々俺の髪を舞い上げる。普段なら美しさに喜びもしたかもしれないが、今の、この気分と状況ではただただ苛々が募るばかりだ。
乱暴に髪についてるだろう花びらを振り払っていたら。
「きゃっ………」
「?」
左手に見える庭の方から、一際強い風と共に小さな声が聞こえた、気がした。
「……ぁ」
木の影、桜の花びら越しに舞い上がる長い髪を必死に押さえてる着物の女がいる。真っ黒な、真っすぐな、長い髪。赤い着物にその黒が映えて、
黒い髪に、
薄桃が映えている。
今時珍しい。
真っ黒であんなに長い髪。
その間にも、みさをは前を歩いていてこんなわけのわからない場所に置いていかれるのはさすがに……と思ったから、早足に追い掛けた。
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