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むせ返る、甘い匂い。
イヤな匂い……じゃないけど、重い匂いが辺りを、いや、俺にのしかかってる。
例えるなら……えっと……。あ、『香水』や『アロマキャンドル』とか匂い関係のコーナーに行くつもりなかったのに、出てしまったようなだるさ。嗅ぎたくて嗅いだわけじゃない良い匂いは、嬉しいものじゃない。
「……ごほっ」
ほら。むせた。
そしてそれが合図だったみたいに、体にも意識が戻って来た。
「車、停まってる……?」
エンジン音も揺れもなかった。ボソリと呟いたら、ぽん、と肩を撫でられた。
「っ!」
「起きられますか?」
がちゃりとドアが開いて風が吹き込んで来る。するとさっきまでの『匂い』は一気に流されて、
「桃色……桜……」
ひらひら
はらはら……
風に乗って、車内に薄桃の欠片が舞い込んで、起き上がった俺に舞い降りてくる。
「庭のものですわね。あらあら、髪にも……」
着物のたもとを押さえながら、すいっと頭に伸ばされた手。
「っ!」
――――――――パシンっ…
「あら、ふふ……出過ぎたまねをいたしました」
思い切り払い落としてしまった。……にも関わらず、恍惚、というように顔を上気させてうっとりと見つめてくる、みさを。
何だ?
この人は。
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