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そう顔に、はっきり出してしまってたのだろうか。すみません、と一言告げてみさをは先に降り俺に手を差し延べる。
「さあ、淳真様」
「いらない。寝てしまったみたいですみません。俺、帰ります。どのくらい、寝てました?」
「淳真様がお休みになられて、三十分程で着いておりましたが……美しいお顔に、見とれておりました。月緒、羨ましいですわ」
「バイトがある、成り行きで着いて来たけど、『様』とか付けられる覚えもないし、とにかく帰してくれないか?」
「バイトはお休み、取りましたわ。成り行きではなくて、意志です。『様』と付けるのは当然のこと。そして……
――――――――淳真様は、もう帰れません」
……なんだって?
にっこりと笑顔で、一気に言った俺の言葉に一気に何事もないように返事を返したみさをは、呆然とした俺の腕、右手を取りぐいっと引っ張った。油断していなかったわけではない。ないのだけど……。
たすん。
車外に、引き出されていた。
「さあ、こちらに。淳真様の『帰還』を、みな待ち焦がれておりました」
「……なに、この……香り……」
さっきより濃密な、甘い匂い。頭の芯から何も考えられなくなるような、甘い甘い、毒が、流れ込んでくる。
「ぁ……」
カクン、と力が抜けた、全身の。
硬い地面の衝撃を覚悟したのに、来ない。
「大丈夫ですか?」
みさをが聞いた。酷く近くで。
何かを返そうと思っても、何もかもから力が抜けているから反応すら出来なかった。
―――――俺は今、みさをに抱き留められている。
力、強すぎないか?
一応俺も男だし身長もそこそこだし、細い方だけど筋肉はあるつもりだ。そんな俺を涼しい顔で、抱き留めて何事もないように体勢を変えて自分の肩に俺の腕をかけて歩き出した、ゆっくりと。誘導されるがままに歩いていくと目の前に、大きな木造の門扉があらわれた。
その上には溢れんばかりに咲き乱れた桜が。
そしてゆっくり、鈍く重い音を立ててソレが開いた。
……って、こればヤバイ気がする。
引きずられるように門の敷居を跨ぐと、紺色のワンピースに白いエプロン姿……いわゆるメイド達が両脇にびっしり並び頭を下げていた。
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