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美しい装飾の、襖が開かれた。
玄関までも遠かったけど、中庭に面したこの『座敷』に来るまでも、遠すぎた。中庭……なんて軽々しく言えない広大な庭は、日本庭園で池や燈籠や砂利、そして……
「桜並木に来たみたいだ……」
塀に沿って等間隔に並んで立派な桜の木が植わっていて、散ることなど知らないかのように桃色を開かせはためかせ、舞い散らせていた。中庭側の障子は取り払われていて、一枚の絵のような光景に立ち尽くしていると
「淳真様」
上座というやつだろう。
床の間側に座布団(たぶん、すごい高価)が一枚、ひじ掛けなどもあって、こんな場所に時代劇の『殿様』や『悪代官』が座ってたなーなんて思った。
「淳真様はこちら」
ぐいっと背中を押されて座敷に踏み入れることに。張り替えたばかりなのか、いぐさの匂いがいい匂いに感じる。
「……………」
この座敷だけでも何畳なんだ?俺の部屋がまるごと入ってもまだ余裕だろう。笑いながらも強引なみさをに、座らされた正面には入口と同じような襖。
「……で、何?時計、返せ」
って。
何かふて腐れた子供みたいな発言に自分が恥ずかしくなり庭に視線を向けた時だった。
ざざぁぁぁぁぁぁ………
「なっ!」
薄桃が、室内に押し寄せるかのように、風に乗って入り込んで来た。顔を、目を、手で庇うようにしてやり過ごす。
凶器か?!
息が出来ないほどの風に花びらの量。
「障子っ!閉めたらど……!?」
振り返る、途中だった。
目の前にあったはずの襖は綺麗に開かれて、そちら側にあった部屋に
「な、何? この、人数は!」
先程のメイドと同様の格好をした女達がずらりと並び正座し深く頭を下げていた。
その先頭には、みさを。
メイドの姿は、たぶん百人はいるだろう。
「何だ?あんたたちっ……!」
「淳真様。私達は貴方の下僕(しもべ)。何なりと、何でもおっしゃってくださいませ」
すぃっと顔を上げたみさを。
妖艶でゾクリとする微笑みを浮かべている。
「それから、この屋敷の全て。全てを淳真様が自由になさって下さい。ですから、姉様から託された『大切な言葉』を私にくださいな」
『大切な言葉』
目の前で起こっている、非現実的な現実に頭がうまく回らない。下僕?何かの物語でしかなかなか出会わない言葉だろ?性的に、そういう趣味は持ち合わせていないから使う、使われる日が来るとは全く思っていなかった。
「大切な言葉……」
「はい、言葉でございます」
「い、言わない……」
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