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何故かわからないけど『言っては駄目だ』と言う俺がいる。
その証拠に、手が震えていた。
―――――言ったら、終わる。
そう思った。
「まぁ、淳真様。悪戯が過ぎますわ」
「は?……ぁ……」
また、甘いあの匂いだ。風通しの良いこの部屋にに、どうやって突然匂いが沸き起こるのか?
そして抜け始める力。そんな中で、必死に『香炉』や何かがあるのかと視線を巡らせるけれど、それらしきものは何もない。ひじ掛けに肘を着いて倒れるのは免れたけれど、倦怠感は重く内側から沸き起こるみたいだ。
「月緒……淳真様に。わかってるわね?」
「はい、お母様」
暗くなる意識の片隅で、誰かと誰かの会話と、きしきし、と軋む畳の音が聞こえる。
「こ……の、匂い、何だ……?」
必死に起き上がり、目を片方だけようやく開けると
「誰だ!?」
はっきりしない視界に、女の唇が映りこんだ。意識が朦朧として、それはゆらめき、何重にも見える。
貧血みたいだった。
冷や汗と体温が上から下へ下がっていく感覚は似てると思う。
「私、月緒。月緒だよ?」
ただ、一つ、違うのは。
「月緒ですわ、淳真様」
俺の体を支えるように背中を受け止めたのは、多分、みさを。
「この匂い……お、前たち、から……」
この状態になる時に、必ず『甘く重い匂い』が俺を包むこと。
完全に意識を失う瞬間に見た二人の女は……
「はい」
「淳真様だけに、わかるんだよ?」
楽しそうに、笑っていた。
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