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無邪気に笑いながら言う月緒に苛々が募り、普段出したことがない程大きな声で遮った。
「…………何で?私、間違えた……?」
しばしの沈黙を破ったのは、月緒の弱々しい声。
間違えた?
何を?
そんなの、わかりきっているだろう?
「俺には、全て間違っているとしか思えない」
口元を拭おうと引き寄せた右腕は、ちゃらりという金属音を伴い……頭の中はぐちゃぐちゃになった。
初めて会った女達。
初めて来る家。
そして現状は、拉致監禁、犯される寸前。
「あのね、淳真様。私、男の人……初めて見たの」
辺りに、濃密な空気が渦巻き始める。
「やめろ……」
俺の力も奪われ、思考回路も怪しくなる。
「淳真様、綺麗だから、私、すごく嬉しい。お母様に、ちゃんと教えてもらったから……」
……………初めて、見た?
何を教えてもらったのか?
「ん……」
冷静に考える俺の頭の片隅を無視して、月緒と唇を重ねる本能だけの自分が現れる。重ねられるだけの唇は柔らかく、気付けば舌を差し込んでいた。
「んっ!!……な、なぁに?」
本能だけで動く舌が絡むと、月緒が離れた。
「今の、なぁに……?お母様……教えてくれたのと違う……」
もう一度、と次は月緒から絡められた。
わけがわからない。
心は拒絶しているのに、今体は月緒を受け入れようとしている……いや、わからないままに、何かに導かれるように勝手に動いているんだ。そして、息をつくあいだに、月緒は嬉しそうに言った。
「淳真様。私、いい匂い、する?あのね、私……淳真様に会えるの楽しみだっ……!!」
―――――――パンっ!!
どん、という鈍い音がした。
「はぁ……はぁ…っ!」
『匂い』という言葉に、意識が覚醒した俺が、月緒の整った顔を、頬を、打った。まだくらくらとする視界、頭、異常に早い鼓動に見舞われながら。
「……謝らない、から。……早く、この……鎖を、解け」
まだ脇にうずくまる月緒に、それだけ伝える。生まれて初めて女に手をあげた俺自身、手が震えていた。きっと月緒も初めて殴られただろう。少しの罪悪感を感じながらも今のうちに、距離を取ろうと布団を抜け、出入口付近に向かおうとした。
「……何で?!淳真様、何で!!」
「離せ……」
「間違えた?なら私、淳真様の言う通りにするからっ」
―――行かないで……!!
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