━━━第二夜

7/12
前へ
/67ページ
次へ
無邪気に笑いながら言う月緒に苛々が募り、普段出したことがない程大きな声で遮った。 「…………何で?私、間違えた……?」 しばしの沈黙を破ったのは、月緒の弱々しい声。 間違えた? 何を? そんなの、わかりきっているだろう? 「俺には、全て間違っているとしか思えない」 口元を拭おうと引き寄せた右腕は、ちゃらりという金属音を伴い……頭の中はぐちゃぐちゃになった。 初めて会った女達。 初めて来る家。 そして現状は、拉致監禁、犯される寸前。 「あのね、淳真様。私、男の人……初めて見たの」 辺りに、濃密な空気が渦巻き始める。 「やめろ……」 俺の力も奪われ、思考回路も怪しくなる。 「淳真様、綺麗だから、私、すごく嬉しい。お母様に、ちゃんと教えてもらったから……」 ……………初めて、見た? 何を教えてもらったのか? 「ん……」 冷静に考える俺の頭の片隅を無視して、月緒と唇を重ねる本能だけの自分が現れる。重ねられるだけの唇は柔らかく、気付けば舌を差し込んでいた。 「んっ!!……な、なぁに?」 本能だけで動く舌が絡むと、月緒が離れた。 「今の、なぁに……?お母様……教えてくれたのと違う……」 もう一度、と次は月緒から絡められた。 わけがわからない。 心は拒絶しているのに、今体は月緒を受け入れようとしている……いや、わからないままに、何かに導かれるように勝手に動いているんだ。そして、息をつくあいだに、月緒は嬉しそうに言った。 「淳真様。私、いい匂い、する?あのね、私……淳真様に会えるの楽しみだっ……!!」 ―――――――パンっ!! どん、という鈍い音がした。 「はぁ……はぁ…っ!」 『匂い』という言葉に、意識が覚醒した俺が、月緒の整った顔を、頬を、打った。まだくらくらとする視界、頭、異常に早い鼓動に見舞われながら。 「……謝らない、から。……早く、この……鎖を、解け」 まだ脇にうずくまる月緒に、それだけ伝える。生まれて初めて女に手をあげた俺自身、手が震えていた。きっと月緒も初めて殴られただろう。少しの罪悪感を感じながらも今のうちに、距離を取ろうと布団を抜け、出入口付近に向かおうとした。 「……何で?!淳真様、何で!!」 「離せ……」 「間違えた?なら私、淳真様の言う通りにするからっ」 ―――行かないで……!!
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加