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ざざぁ………
桜がざわめく。
雲一つない、真夜中の空。
そこには月だけが輝いて、俺達を照らしていた。
非現実的な、現実。
昔から比較的、何でも受け入れて来たけれど。
「吸血鬼………」
血、を好む、魔物。
それすら受け入れているのは、俺がおかしいからじゃない。現実に触れ合ってしまったからだ。受け入れないのは、逆に現実逃避だろうと思うし。そして、その遺伝子は確実に俺の中にあり、その遺伝子が認めさせているんじゃないだろうか?
血を好んだことはないはずだけど。
「でも、淳真様は違うよ、男の人だもん。淳真様はみんなのご主人様になる人で、私の旦那様。………だから」
――――カリっ……
人差し指に小さな『牙』が立てられた。
「大切な、言葉を、ちょうだい。じゃないと、だめなんだよ?」
ちゅくちゅくと、開けた穴に舌先を差し入れるように動かして、時々ちゅるりと嘗め上げて。
ピリリと小さな痛みが指先から脳まで走る。
「つ……」
ちゅるっと唇を離した。終わったのかと油断したその瞬間に、再び温かい、柔らかいものに指は飲み込まれ。
月緒は、血を、啜(すす)った。
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