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「………ここに、いるつもりはない。この鎖を、早く外せ」
恍惚な表情で、嘗める月緒に言う。気付けば掛け布団には、血と唾液が滴り鮮やかな模様が浮かび上がっていた。
「……だめ」
「ふざけるな」
「ふざけてないよっ」
「……いい加減にしろ」
「淳真様が『言えば』いいだけ」
進展のないやり取り。
そう思った瞬間に、首に腕を回しながら飛び付いて来た。予測していない状況に、何度めかの押し倒された状況だ。
「……っ!」
ぬるり……と渇いた首筋に生暖かい舌が動いた。
ちゅ……と、耳元で吸い付く音がする。
「あつ……ま、さま。私……月緒はなんでも、するよ?だってそれが……」
「しなくていいし、されたくない」
「どうして!?淳真様、嫌?」
「嫌」
間髪入れずに即答して、きょとんとした月緒を押しのける。着物の袖で適当に首を拭って、指先も拭う。白い着物は、俺の血を吸い所々赤く染まる。指先や顔が冷たい気がするのは……貧血からだろうか?
『大切な言葉』を言えばなにかが変わるのはわかった。
言わなければなんとかなるような気もする。
言ったら最後。
きっと、そうだ。
でも、だとしたら何故そんな言葉を母さんは俺に遺したんだ?本当は、言ってしまった方がいいのかも?そんな自問自答から逃れるように、月緒のいない方へ体を向けて布団に入って丸くなった。
疲れた。
本当に。
……月曜日は午前中から講義がある。
頭の片隅で、自分で決めたルールに従う自分がいて笑えて来た。右腕の鎖がある限り、どうにもならないだろう。
「……淳真様。わかりました………」
音のない部屋に、しゅんと音が聞こえそうな程小さな声がした。キシリ、と畳が軋む。
「………私、初めて見た、初めて触った男の人が、淳真様でうれしい」
意味のわからない感想を述べた月緒は、ポン、と布団の上から肩を撫でる。……内心『犯されないか』と焦ったりもしているけど。
自分の意志があれば、そんな行為をするのに躊躇なんかない。ただそこに『求められるだけ』の関係しかないなら無理だ。
そして月緒は何度か繰り返した後、腕を離して……
「…………なんでお前が入ってくる」
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