━━━第一夜

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俺が十歳の時に母さんが亡くなった。父親は知らずに、話しにも出なかった十年間。決して裕福ではなかったけれど、辛いとか抜け出したいなんて考えたことはなかった。 母さんが遺してくれたのは、炊事洗濯、生活に困らないような常識とわずかばかりの貯金。子供心に『これは無駄に使ってはならないな』と思ったのを覚えている。 そして。 ある言葉。 『全て、譲られり』 何を譲られるのか。 訊ねたけれど曖昧に微笑んだだけだった。 『それをいつか迎えに来る、母さんの妹に告げなさい』 それが遺言でもあったのだと思う。だが詳しく訊くこともなく、母さんが亡くなるその日まで過ごした。 その日は訪れて、でも、『母の妹』は訪れることはなかった。 母が亡くなって少しすると、『母の妹』ではなく『施設の者です』と名乗る、見知らぬ女性たちが俺を引き取りに来た。正直、警戒しなかったわけではない。けれど『生活が楽になるのならば』と、受け入れた。 冷めた子供だった。 素直にそう言える。 母さんがいなくなり、それは更に増したと思う。 不思議だったのは、『施設』と言っていたはずなのに子供は俺だけだったこと。それでも気にするのをやめた。身近には同年代の人間はいなかったが、『普通』に暮らしていた。………周りが女性だけだったのは、もしかしたら異常なのかも知れないけど。
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