━━━第一夜

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一年が過ぎ、母の妹は来ない。 その頃には、俺が母の後を追わないようにと、母が最期についた嘘だったのだろうと思うようになっていた。その頃から、元々母に似た、女性寄りの顔立ちだった俺は、顔だけでモテるようになっていた。『全て計算』……とは言わないけれど、誰にどんな顔をすれば喜ぶか、なんて………わかっていた。でなければ、小学六年になったばかりの子供に、大人の女、先生が言い寄るなんてなかっただろう。 二年が過ぎて、母の妹は来ない。 中学は必ず部活に入らなければならなかったし、勉強も出来た。彼女……と思い込まれる存在にも、ことかかなかった。 でも、心を開いた覚えはない。 追われる時間の中で、その存在は『架空の人物』として、徐々に記憶から薄れていった。 三年が過ぎて、四年が過ぎた。 高校受験もクリアして、『母親の妹』のことはすっかり記憶から消え去っていた。でもあの言葉だけは、ずっと心の奥底に残り、わがかまって、絡みつくように留まり続けていた。 高校になると俺に付けられる形容詞は『綺麗』『繊細そう』。 黒い髪に焼けない肌。睫毛は長くて、シャープな顔立ち、らしい。自分では『母親似』としか思わないけれど、周りは勝手に盛り上がっていたようだ。 その頃から、自分で決めたルールがある。 『相当なことがない限り、学校もバイトも休まないこと』 バイトも始めていたし、時間も大切にしたかった。友達との交流をしないわけにもいかないし、深夜まで遊んだ日だってあるけれど、翌日の学校、バイトはサボったことはない。 大学受験も無事に済んだ頃『施設』を出ようと相談した。 すると用意されていたかのように、格安すぎる物件が紹介された。 『1LDK、フローリング(床暖房完備)十畳』で、新築だった。値段は………………片手以下。おかしすぎる。インターフォンにはもちろんカメラ付き、必要最低限のものは全て備え付け、そして最新と括られるものばかりだった。 おかしいと思いつつ、『施設の人達』を介しているわけだし……と、生活が楽になるならばと、深く考えるのをやめた。考えてはならない、と思ったのが正直なところ。 そして、今。 夜型のバイトも出来る歳になった今。 日曜日、午前八時三十分。 今日は、午後二時からの喫茶店でのバイトだったけれど、普段よりは少し遅い時間だがしっかり起きて朝食を摂っていた最中だった。
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