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上品な落ち着いた色合いの中に、華やかな柄を盛り付けた着物をまとい、髪をすっきりと纏め上げた『母さん』が映っていた。
いや、わかっている。母さんは亡くなってるのだから違うと。
わかっているのに『母さん』と思ってしまうほど、そこに映っていたのは亡くなった当時の母さんそっくりだったのだ。
『こちら、神長 淳真(カミナガ アツマ)様のお部屋で、間違いありませんでしょうか?』
頭を垂れ、そしてゆっくりと顔を上げたその人は、妖艶な微笑みを浮かべていた。
(落ち着け。あれは十年前だ)
落ち着け落ち着け、と心で呟きながら、一息ついて
「はい……そう、ですが………」
なんとか答える。
『私(わたくし)、神長みさを、と申します』
「かみ……な……が………」
同じ苗字だ。
そして、みさを、と名乗ったこの人はきっと。
『信じていただけるかわかりませんが、私は淳真様のお母様の、妹です』
―――やっぱり。
言われる前に、うっすら思い出しかけた『架空の人物』が、実体を持って、十年経った今、現れた。
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