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なんで?
なんでだろう。
気づけば、促されるままにマンションの前に止まっていた真っ黒なリムジンの後部座席に座っていた。朝の騒ぎの元はこの車らしい。こんなに大きな車が停まっていたら、交通の妨げになるのだろう。
そして。
母ではない。
母によく似た、母の妹。
その人が、俺の隣、と言っても俺がギリギリまでドアに引っ付いているので、だたでさえ広いシートにも関わらず、さらに大きく二人の間に空間が生まれている状態だけど、そこに座っている。
「もっとゆったりとお座りくださいませ。お飲み物などいかがです?」
そう言われても。
流石に警戒しないわけにはいかないだろう?……乗ってしまってからでは遅いのかもしれないけど。
「いえ、おかまいなく。……どこまで行くんですか?……えと、みさを、さん」
ふっと笑う、この人。妙な色気を振りまくこの女性に、何とも言えない不快感がある。触られてはいないのに、何故かとてもそのように感じる、不快感。
「みさを、で構いません。淳真様」
ふふ……と笑い、氷やら何種類かの飲み物を、備え付けの冷蔵庫から取り出した。
「淳真様、とてもお綺麗です………ふふ……あの子、幸せですわ」
妖艶な笑みを浮かべながら、意味のわからないことを言う。
その何とも言えない色気を放つ目は、俺に対して『姉の息子』ではなく『男を見る目』で見ているんじゃないだろうかと思わせるものだ。
ますます、不快感が募った気がした。
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