━━━第一夜

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ふと右手にしているアナログの時計を見てみると、もう十時になろうとしている。ちなみに俺は左利きだから右手に着けている。 「あの子?」 「はい。もう少しかかりますから何かお飲みになって、ゆっくりなさってください」 「!」 突如、真っ暗になった。 元々スモークの貼られた車内だったけど、そういう暗さではない。時折、オレンジの光が等間隔に差し込むそこは。 ―――トンネルだった。 「……トンネル?街の、外か………?」 「はい。このままずっと、抜けたらすぐに見えますわ」 ―――――街の、外。 ゴウゴウと特殊な風音や段差を感じながら、 二十歳にして、生まれて初めてトンネルをくぐり、 山を越えて、 街を出た。 「ぁ…………海………?」 窓越し、黒くスモークが貼られているにも拘らず、キラキラキラキラ反射する光が瞳に刺さる。 「淳真様は、海、初めてご覧に?」 「……海も………そもそも、街を出たのが初めてだ…………」 そう。育ったあの街から一歩も出たことがなかった。母さんが亡くなって『施設』に引越しをしたけれど同じ街の中だし。 今のマンションだってそうだ。 遠足、修学旅行、ありとあらゆる『遠方に出向く行事』には、酷い体調不良にみまわれて参加出来た事がなかった。 だから。 ―――――少し、怖い。 知らない女が隣にいて、知らない運転手の運転する知らない車。そして知らない景色が、周りを包む。母さんに似ているといっても母さんではない。 気付かないうちに、ドアノブをガチャガチャと開ける動作を繰り返していた。 「大丈夫ですわ。私たちは貴方の味方」 いつの間に間合いを詰めたのか、そっと手を取られた。妖艶に微笑むこの人の手には、ミネラルウォーターの入ったワイングラス。 「ぇ…………ぁ………」 流れるような動作で渡され、受け取り一口、口にする。 緊張からか喉が乾いていたようで、残りを一気にあおった。
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