ずっと、いっしょ。

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ずっと、いっしょ。

 最初に“あれ?”と思ったのは、傘がなくなったことだ。  私は元々カラフルな傘が好きで、特に“モッチベアー”というブランドの傘を愛用している。“モッチベアー”は、折りたたみ傘よりも大きな傘の方をたくさん作っている会社で、傘を開いた裏側に小さくクマのマークがついているのが特徴だ。  ちょっと見づらいが、傘をさして歩くと“ぺろっ☆”と☆マークつきの効果音で舌を出している、可愛らしいクマと目が合うことになる。高校生時代からこのクマが好きで、ずっと愛用してきたのだった。色のバリエーションが多いのも魅力の一つである。  そんな私の愛用の傘が、コンビニに入った数分程度でなくなってしまった。  携帯の充電器を忘れたことに気づき、出社前に慌ててコンビニに駆け込んだ時のことである。会社のすぐ近くのコンビニなので、売り場に迷うこともない。  入ってすぐに充電器を見て、ついでに少し飲み物コーナーに立ち寄ってレジに並んだ。出るまでそうそう時間はかからなかったはず。それこそ、五分かかったかどうか、という短時間であったはずなのに。 ――な、無い!私の傘が、無い!  確かに、コンビニ前の傘立てに挿した筈である。真っ赤な傘だから、そうそう見失うだの見間違えるだのということもないはずだ。  それなのに、傘がない。ともすれば可能性は二つに一つだ。  此処に挿したつもりで、別のところに置き忘れてしまったか。  あるいは誰かに盗まれてしまったか――である。 「先輩ー?どうしたんですか?」  そこに、少し明るめの長い茶髪を揺らしつつ、トコトコと歩いてきたのは会社の後輩だった。  同じ総務課の美作鈴唯(みまさかりゆ)。  入社二年目、目がくりっとしていて、ちょっとアイドルでもやっていそうなほど愛らしい見た目の女の子だ。入社直後から先輩として面倒を見てきたこともあり、随分私のことを慕ってくれているらしい。お姉さんみたいで先輩のことすっごく好きなんですー!なんてことを恥ずかしげもなく言ってくれる可愛い後輩である。 「あー、その……私の傘がね……」  困ってしまって、ついつい鈴唯に話してしまう。彼女は傘が盗まれた可能性が高いと見るやいなや、酷い!と小さな顔を真っ赤に染めて憤慨した。 「先輩のクマちゃんの傘盗るなんてひどーい!うらやま……じゃなかった、けしからんのです!人のもの盗むなんて犯罪ですからっ!」 「そうね。あんな子供っぽい傘のどこがいいのかしらね。……どうしましょう、今は小雨だからつっきれないこともないけど、帰りもっと降りが強くなるって予報で行ってたし……」  このままコンビニにリターンして、ビニール傘を購入していってしまおうか。そう思ったが、いくつか問題があった。
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