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#7京北ガール
三年生最後の試合も間近に迫る
そんな時期に女子が1人、入部してきた
「内村由香です!よろしくお願いします」
同じ1年生だ
髪型が特徴的な女の子で、長い髪を両側に三つ編みで編んで、くるっと円を描いて止めている
しっかり茶髪
染めてるな…どうも
「おぉ…可愛いい」
「大歓迎だ!」
先輩方がヒソヒソ嬉しそうに話している
「ヤッター」と後ろで歓喜してる人もいた
女子が剣道部に入るのがそんなに嬉しいのかな…
私の時はこんなに喜ばれてなかった気がするが
ちなみに、理穂が入部するってなった時は、男子はお祭り騒ぎでした…
何だろう、この格差は…
というか、そんな嬉しそうにしてもあと少しで引退じゃないですか。先輩
「あっ、由香!ホントに入るの?」
理穂が胴着に着替え終えて、更衣室から出てきた
どうやら、知り合いらしい
「当たり前や!絶対あんたより強くなるんやから!」
理穂はあはは、と苦笑い
「敵対しないでってば」
「それは無理な話」
ああ、あれか…ライバルってやつね
「生まれた時からウチとアンタは敵同士や。犬と猿。月とスッポンやから!」
最後のは違うと思うよ
「はぁ…めんどくさいなぁ」
と言いつつも少し嬉しそうだ
理穂は全体的に優秀だし、何かと周りから目について、こういったライバル的な存在はたくさんいそうだ
今日から1人増えて
女子部員が3人となった
「山田ー、今日はお前が初心者組に入って教えてやれ」
「……………はい!!」
マジですか!やったぁぁああーー!!!
本日は経験者組を抜けて初心者コースの指導
超楽ちんコース
もらったぁぁああーーー!!!!
無意識にガッツポーズをする美紀
それを見て、笑いながら理穂が近づいてきた
「こぉらぁー、サボろーとしてるなぁ」
「んな訳ないじゃん」
目が泳いでるので、誰でもまる分かりだった
「みーこ、早めに教育指導終わらせて、経験者組に入ってね~」
理穂は早くも経験者コースに加わり練習するみたいだ
「いやいや、初めての子には熱心に基本を植え付けなければならない…であれば、部活時間丸々使わせてもらうしかあるまい」
「何そのしゃべり方」
爆笑された
「と・に・か・く、逃げんなよぉ~」
ええー…やだ
そのまま練習が始まった
まずは素振りからだが
経験者組のみんなのところに行こうする由香
「あ、内村!そっちは違う。こっち、こっち」
体育館の端に手招きをする
「えぇ…」
そんな嫌そうにしなくても
とぼとぼ私の元まで歩いてくる
「ちょっと、なんで!?」
うん?
「なんでみんなと違うん?」
そりぁ…ねぇ?
「実力がまだそこまで達してないと思うし」
はぁ?というような反応が帰ってきた
「ウチを誰やと思ってんの?」
いや、むしろ誰なんだ…
あー、もしかして…
「実は経験者?」
首を横に振る
「いやいや、初めてやで」
やっぱり素人なんかーい
「せやけど、大丈夫!運動神経なら誰にも負けんし」
はいはい、ワロスワロス
「もういいから、早くしようね。まずは素振りから」
相手するのも面倒になったので、無理やり練習の流れに持っていく
「えー、嫌やー…モブと一緒なんて」
モ、モブ…まぁ、間違ってはないな
「いいじゃん、モブ同士、仲良くしようよ」
由香は目を丸くした
「はぁ?ウチ、モブちゃうし!」
「そうかなぁ」
「当然やん。ウチどう見ても主人公やし」
そんな事言う主人公、いません
「主人公ねぇ…その役ならもうウチは間に合ってるんだけど」
隣で練習に励む理穂に目をやる
すると納得したのか、何も言い返して来なくなった
由香は少し俯いていた
「あ、あのぉ…ちょっと~」
気まずい。これ以上空気が重たくなるのが嫌で声をかけたら彼女は話始めた
「ウチと理穂はライバルやから」
「ライバルねぇ」
由香は頷いた
「初めて理穂に会った時、ビビッときたん。ウチの中の何かが」
へぇ…特殊なアンテナでもついてるのかな…
「やっと、同族と出会えた!ってな。ちょっと身体ウズいたわ」
中二病全開なのは分かったよ
「ライバルとして競い合えば必ず今よりも成長できると思ったんや!」
中々熱い子みたいだ
また私とは別の種族らしい
熱血種と名付けよう
「理穂はウチを更なる高みへ導いてくれる
だから付いていくんや、どこまでも」
ふ~ん
「そうなんだ…何かコバンザメみたいだね」
「そんな魚と一緒にせんとって!」
ツッコミもうまいし
苦手だと思ったけど…けっこう、面白い人かもしれない
「理穂よりも更に上に行きたい訳ね」
「そう!」
彼女は腕を組んでうんうん頷く
「だったら基本から忠実に練習するしかないね」
「基本?」
「そう。素振りに足さばき、構えや競技のルールまで」
「理穂もやってきたんだよ」
そう言うとピクリと反応し
防具を付けて稽古をしている理穂を見つめた
「彼女はやってきたんだ。内村も当然やるよね?」
竹刀をギュっと握り、私の方へ振り向いて言った
「私にも一から教えて!基本から!」
真っ直ぐな瞳をしている
負けず嫌いな女の子なのかな
「了解、了解」
もちろん了承した
頑張る子は応援したいしね
スイッチが入ったのか
熱心に話を聞いて
基本を忠実に繰り返す
とても素直になったので、別人じゃないかと思ったくらいだ
筋も良い
覚えも速い
理穂は天才だが、彼女も光る原石なのかもしれない
私?私はいったて普通の人間ですよ
練習が終盤に入り、理穂がチラチラ私を見てくる
はぁ…わかったよ
「内村、後は端に下がって練習見といて」
「了解、わかった。ありがと」
本当に素直になったよね
誰なの、マジで
私も防具を付けて経験者組にしぶしぶ参加
いつもの練習メニュー
違うのは理穂がいること
まあ、いてもいなくても同じか
時間いっぱい、動く
やるからには全力でやる主義
あとは時間が過ぎるのを待つだけ
お願い
早く時間になってぇ~…
苦しい時、嫌な事をしている時ほど、時間は長く感じる物です
ゲームしてる時なんか一瞬なのに……
今日も私は疲れ果てた
帰り道も今日から1人、由香が加わる
先ほどの素直さがぶっ飛んで、普段の調子に戻っていた
「いやー、剣道むずいわ~」
「初めてなら、仕方ないよ」
「はよ理穂に追い付きたいなぁ」
「由香は運動神経良いから、すぐ追い付かれそうだよ」
会話が弾むお二人さん
敵同士ではなかったのだろうか
私は疲れて会話どころではない
早く帰って冷たいジュース飲みたいなぁ~
「ちょっと、そこの黒髪。テンション低ない?」
「疲れたの…」
「はは、まだまだやなー、山田は」
はっ、ひよこちゃんがよく吠える
「そうだね、内村と同じだよ」
「はぁ?ウチのどこがまだまだやねん」
「全部」
「ほあ!?」
ギャーギャーわめく由香
疲労した身体にこのキャンキャンした声
鼓膜が痛い…
「でも、あれだね。由香が入って、先輩達もすごく喜んでたし、良かったじゃん。歓迎されてるね」
理穂が違う話題で流れを変える
りほっちナイスぅ~!
「まぁ、ウチやしなぁ。当たり前やな!」
「…確かに私の時とは大違いだったかも…理穂の時も大騒ぎだったもんね」
「そ、そんなことないよ~」
と笑ってフォローする理穂
いいんだよ、隠さなくても
私は分かってるから
「でも、どうしてこうも男子の反応が違うのかなぁ」
少し悔しいのだが…
「あれちゃうの?胸の大きさとか」
はぁ?
ジロリと由香を見る
「そんな、睨まんといてぇな…事実やん」
この女…可愛くない!
「理穂はぁ…んー…」
理穂の胸部をジーっと見つめ
推測を始める由香
「ちょっ、そんなに見んな」
恥ずかしくて両手で胸を隠す
「そんな、隠さんでもええやん。減るもんやないし。もっとほら、こお、ぐいっと見せてみ」
どこのオッサンだよこいつ…
「もう、いいからそういうの」
しつこい由香を軽くあしらう
「連れへんなぁ…まぁ、理穂はけっこうあるな」
そう言って次は視線を下げて自分の胸を見る
「ウチもある」
さいですか…
続いて私の胸に視線を当てた
にゃ~ん
おい…その効果音はなんだ
「見るまでもなかったわ」
失礼極まりないな
「意義あり!」
「何か?」
ニタリとこちらに視線を向ける
くっそ…
「急いで出たからブラもそれなりに絞めてんの。それで平に見える訳よ」
「ホントかなぁ~」
ジロ~と見てくる
「あ、あったぼーよ!こう見えても、手に収まるくらいはありますとも」
「あはは、可愛ええなぁ」
くっ…
「どう見てもにゃん子ちゃんやん」
にゃん子ちゃんって何だ
小さいってか?小さいって事か?
くうぅ~…
「第一、女性の価値が胸で決まるなんておかしくない?」
おかしい
絶対におかしいはず
そう願っている私の願望かもしれないけど
「何を世迷い言いうてんねん」
由香は呆れた顔で口を開く
「ええか、よう聞きや。てかメモれ、これメモれ!ハリアッ!」
急に何なんだ、もお…
「アンタのような勘違い者に、何回も教えなアカンなんて面倒くさいからな?受講者は受講者なりに覚えられるように、ちゃんとメモとるんやで?」
はぁ…私がいつ君の受講者になったのだろうか
「ただ聞いてるだけじゃ、受講してる言わへんねん、ええか?」
もう…何なのかな…早くしてくれ
「おっぱいは海の神より強い。これメモれ」
はぁ?
何それ、意味わからん
私も理穂もポカーンと「?」マーク
「どういうこと?」
「まあ、簡単に言うと、海よりも男性を溺れさせた数が多いって事なんや」
はぁ~なるほどぉ
私も理穂も手をポンっと叩いた
「まぁ、この名言があるってことで理解できたやろ?胸は女性の武器であり、ステータスなんや」
何だろう、めちゃくちゃ説得力があるんですが…
「どお?納得いった?」
由香は満足げだ
「うん…それじゃあ、私からも一つ言わせてもらうよ」
「ん?」
「巨乳は偽あり、貧乳は天然なり」
「何それ?」
「デカいのなんのと喜んで、偽と分かってガッカリする人は多いだろうなぁ~と思って。その点、小さい胸を選べば作り物を引かされる事はないということだ」
なるほどね~っと理穂が笑う
「大きさが全てじゃないってこと」
「みーこは心理的だね~」
「いえいえ、そんなそんな、なんのなんの~」
「あはは、何それ」
楽しく会話が弾む
ぷるぷるしている1人を除いて
「ちょい待って、私のがニセって言いたいん?」
「そんな事言ってないよ、偽乳さん」
「偽乳言うとるやんけぇ!」
「うわっ!」
凄い剣幕で走ってきたので反射的に逃げてしまった
「待てぇ!貧乳の分際でぇー!」
「分かった、分かったから、その顔で追ってくんなってば!」
めちゃくちゃ走った
部活終わりにまた運動…オーバーワークだって
ゼェ、ハァ息を切らす二人
「二人共速いし、体力あるね~」
理穂も後ろからついてくる
息も切らしてない人がよく言うよ
「待たんかぁーい!」
もう、いい加減にしてくれ…
「ウチの偽ちゃうで、触ってみ?」
何言ってんだ、この子
「もう分かったって…だから追いかけてくんなって」
「嫌や!」
「わかった!ほんもの、ホンモノ!だから追いかけてこないで!」
「ほな、逃げんのやめて?」
「じゃあ、追いかけるのやめてよ!」
どちらも走るのを止めない
少し無言の間が空く
「そや!いっせーのーせで止まろや?な?」
「……うん、分かった」
「「いっせーのーせっ!」」
いつまでも走るのを止めない二人
「おい!約束がちゃうぞ!?こらぁ!」
「どの口が言うか!」
後ろで理穂が笑い転げていた
私はトホホだよ
結局私達は暗くなるまで京北中を走り回り、やっとの思いで帰宅(何とか撒きました…)
体フラフラ汗だらだらで玄関に倒れ込む美紀
思った以上に床がひんやりしていたのでそのまま、うつ伏せで動作を停止した
床ぁ~……最高なんじゃあ~…
しばらく思考停止
……
ダメだ…もうここから動けない
動けないのだ
てか、動けるはずがないのだ
真夏の暑い中で、あれだけ走り回ったあとでこのひんやりとした冷たい床……
抜け出せようか…
いや、抜け出せない…
私は魔のスポットにハマってしまったらしい
もう誰も私をここから動かすことはできない
私自身であったとしても
親はともかく
二人共今は家にいないみたいなので
もはや不可能である
パタパタ床を駆ける音がする
どうやら私の弟だ
弟が私の元へ来てツンツン体をつついてきた
「なに?」
私はもう動けないぞ。弟よ
「お帰り」
「…ただいま」
私はもう動けないんだ…
しばらくそっとしておいてくれ
私の戦いは終わったのだ……
「お姉ちゃん、ゲームしよ」
っ!
「うぉおおおおぁあああ!!!!」
私の全筋肉細胞が
身体の全ての細胞を連打し始めた
巡るめく血液
疲労困憊の足を奮い立たせ
立ち上がる
声を上げて登りつめる
「セェアアァァァァーーーー!!!」
↑
ただ立ち上がっただけ
血の涙を流しながら玄関で仁王立ち
「やるか…」
私の戦いはこれからだ!
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