年季

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 私は大きな工場で、小さなネジやボルトを作っている。  今や機械で何でも作れるご時世、しかし、私たちが取り扱っている部品は少し特殊で、細かな微調整は、人間の手でしか入れれないものである。  その昔はとても小さな工場だったが、私たちにしか作れないモノがあると、胸を張って仕事をしたものだ。  今となっては、どうだろうか──。  立派な工場に飲み込まれ、小さく細々と仕事をしている。やる気や活気など、もうここにはない。  私たちの部署は、姥捨山などと若者たちに言われているのは知っている。  使い物にならなくなった老人が、定年までを過ごしてゆくような場所になりつつある。  だが時には、たらい回しにされた若者も配属される。  大体そういう若者は三日と続かない。 「こんな場所に配属されるなら、辞めた方がましっすよ」  上司の私にも怯まず、そう述べたのは、まだ二十代半ばの若い衆だったか。  その子は最短だったなぁ。  半日、いや、配属されて一時間後には退職していたのだから。  参った参った。
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