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そして、藤堂ゆいは本当にやる気があった。
汚い油がはねようが、鉄の匂いが手に染み付こうが気にもとめず、仕事に集中する。
彼女の手は綺麗すぎる、それゆえに、爪に浸透する汚い油汚れが際立つ。
「軍手の中に、ゴム手をはめなさい。そうすれば少しは汚れにくいから」
私がそう言うが、藤堂ゆいは首を横にふる。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。手の感覚が鈍るのが嫌なので、すみません」
これくらいの年頃の子は、ネイルなんてものをしたいのじゃないか、ハンドクリームで保湿なんかして、綺麗な手でいたいのではないか?
そう思っていた私は、彼女がよほどこの仕事をやりたくてやっているのだと知らされた。
そんな事よりも、いい部品を作る事の方が、彼女にとってはしたい事なのだ。
出来上がったネジやボルトを検品する。
汚れた彼女の手から作られた部品は、とても繊細で綺麗だった。
「──素晴らしい出来だ」
彼女に言ったのではない。
私の独り言がポロっと漏れてしまったのだ。
彼女は瞳を潤ませて「良かったぁ」と小さく言った。
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