第三章「奇妙な関係」

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「やっぱ、結構腫れてたね」 保健室での治療を終えて、今は校門前。靴下を脱ぐと足首が赤黒く変色して、その上結構腫れていた。 打ち身と捻挫、骨に異常があるといけないから、念の為病院にも行かないといけないらしい。 「もう終わったんだから、帰れば良いのに」 ぶすっとした顔でそう言う彼女ーー先生が「相川さん」って呼んでたから名前は相川(あいかわ)で間違いないはず。相川さんは、相変わらず不機嫌そう。 「家族迎えに来るんでしょ?それまで一緒に待ってるよ」 「ホントお節介」 「そう言う相川さんは可愛くないね」 「何で名前知ってんの?キモ」 「さっき先生が呼んでたから知っただけだよ!」 本当に、足を怪我しても口だけは元気。見た目と中身が違い過ぎる。ギャップが過ぎる。 さっきの先輩達にやられたわけではないらしいけど、また会ったらその時こそ何が起こるか分からない。 そう思った俺は、家族が迎えに来るまで一緒に待つことにした。悪態吐かれながらこんなことして、俺ドSどころかドMじゃん。 一応眼鏡はかけてるけど、ドSキャラは一先ず中断。相川さん相手には、とてもじゃないけど試す気にはなれなかった。 「名前」 「え?」 「名前、聞いてない」 校門前にもたれかかって、横目で俺をチラッと見ながらそう口にする相川さん。 「あぁ、俺早乙女。早乙女南」 「可愛い名前」 「…良く言われます」 今日初めて話した相川さんにまで「可愛い」と言われてしまった。…いや、名前のこと言われただけだからまだマシか。 「相川さん、下の名前は何て言うの?」 「…小花(こはな)」 「へぇ、可愛いね」 素直な感想を口にした途端、ジト目で睨まれる。え…俺なんか変なこと言った? 「どうせ、似合わないって思ってるんでしょ」 「思ってないよ。可愛い名前だから、そう言っただけだよ。相川さんにピッタリだね」 ニコニコしながらそう口にした。女の子を可愛いとか言うのに、恥ずかしさとか俺にはあんまりない。というか、思ったこと何でも口にするから良くねぇ達に怒られる。 「…あっそ」 そう言って目線を自分の足に巻かれた包帯に向けた相川さんは、それから何も喋らなくなった。俺もそれ以上喋ることもなくて、暫しの沈黙。 そういえば、相川さんって何組だろう。ふと湧いた疑問を口にしようとして、目の前で聞こえる車のエンジン音に気付いた俺。それは相川さんも同じだったようで、下に向けていた顔をパッと上げた。 黒のミニバンがハザードを点けながら俺達の近くで停車した。運転席のドアが開き、男の人らしき人が降りてくる。 「来た」 「あ、あれ相川さん家の車?じゃあ、お父さん?」 俺がそう言うと、相川さんは「兄ちゃん」とお父さんであることを否定した。兄ちゃんが迎えに来てくれるなんて、兄妹仲良いんだなぁ。 …良いなぁ、兄ちゃん。 なんてぼんやり相川さんのお兄さんに目を向けて、俺は驚愕した。 こ、この人はーー 〝ドSな彼氏に夢中過ぎて困ってます″のヒーロー、帝様だ……!!!
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