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昨日、というか今日の朝まで読んでたあの漫画に出てくる、ヒロインの相手役。御曹司で生徒会長で長身イケメンでドSの、世の中の女子の理想像・伊集院帝様。
勿論帝様は漫画の中だけの人物、幾らバカな俺でもそれ位は分かる。
けど今、俺の目の前には紛れもなくあの帝様が立ってる。そして、相川さんと喋ってる。
「帝様だ…」
「は?」
その男の人を目を見開いて見つめる俺に、横に居る相川さんが訝しげな声を上げる。
「帝様!帝様が居る!あの、あの漫画に出てくる帝様だ!ねぇ相川さん!帝様が居るよ!!」
興奮気味に相川さんの肩を掴み、ガクガクと揺さぶる。興奮し過ぎて、相川さんが足を怪我していることを忘れていた。
「ちょっ、何?痛いんだけどっ」
「あ、ごごご、ごめん!足痛かったね!」
慌てて相川さんから手を離す。
「いや、足は大丈夫だけど。急に何なの」
どうやら相川さんが痛かったのは、掴んだ肩の方だったらしい。どっちにしても、ごめんなさい。
「小花…何?」
不意に聞こえた、低い声。俺も男だからそれなりに声は低いんだろうけど、そういうんじゃなくて。いかにも「男」て感じの、低音ボイス。不思議と怖い感じはしなくて、女の人が好きな声ってこんな感じなんだろうなって勝手に想像した。
「何だろ、分かんない」
「は?」
「まぁ、一緒に待ってくれてたのは確か。頼んでないけどね」
辛辣な一言と共に俺に一瞥をくれる相川さん。その言い方、身もフタもないんですけど。
相川さんの言葉に目の前の帝様は良く分かんないって顔で俺をチラッと見ると、すぐにまた相川さんに視線を戻した。
「足、怪我したって?」
「別に、大したことない。てか、何で兄ちゃん?」
「母さん何かの集まりだって」
「何かって?」
「さぁ」
「何それ」
俺の家とは全く違うクールな会話に驚いていると、二人同時に俺を見てきた。美形兄妹の冷たい目線の威力は、色んな意味で破壊力抜群。
「早乙女君、このまま帰るなら乗ってく?病院行く前に家まで送るけど」
予想外の提案に、キョドる俺。
「え、いや、そんな!恐れ多い!」
「意味分かんないんだけど」
「あ…いや、俺寄るとこあるから!それより早く病院行った方が良いよ」
「そう?なら良いけど」
「ありがとう!気を付けてね」
「うん」
短い返事の後、ひょこひょこと車に乗り込む相川さん。帝様も俺に軽く頭を下げると、運転席に乗り込んだ。
そのまますぐに発進するかと思ったけど、助手席側の窓が開けられ、相川さんが顔を出す。
そして一言。
「早乙女君、その眼鏡似合ってないよ」
冷静な表情でそれだけ言うと、窓が閉まり車が発進。そのまま黒のミニバンは走り去っていった。
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