第三章「奇妙な関係」

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「早乙女君、相川さんが呼んでるよ」 放課後、教室にはまだ半分位人が残ってる時間。クラスの扉に近いところに座ってる女子が、そう俺に声を掛けた。 「え…お、俺?」 「うん、早乙女君って言ってたけど…」 戸惑う俺に、その女子まで戸惑いだす。そりゃそうか、頼まれただけだもんね。 「あ、ごめん!ありがとう」 笑顔を見せると、彼女はホッとした様子で席へと戻っていった。席を立ち上がろうとした俺は、近くに居た理人に声を掛けられる。 「おい、南。お前いつの間に相川さんと仲良くなったのー?」 「な、仲良くなってないよ。ただ、怪我した相川さん保健室に連れてっただけ」 色々端折ってはいるけど、嘘ではない。 「ふーん。にしても、わざわざ教室まで来るかー?あの、相川さんだぞ」 理人がどういう意味で「あの相川さん」って言ってるのか分からないからあんまり下手なことは言えないけど、先輩にすらあんな感じだったから相川さんはいつでもあんな感じなんだろう。 「何でも良いから、付いてくんなよ!」 俺と一緒にちょっと立ち上がろうとしてた理人を牽制しながら、急いでドアへと向かった。 「なーにブーたれた顔してんだよ、瑠衣」 「…べつに〜」 「分かりやすいな、お前」 「理人、煩い!」 相川さんが立ってるであろうドアの向こう側ばかり気にしていた俺には、教室でのそんな会話は耳に入ってこなかった。 「相川さん、お待たせっ」 「…煩い」 しかめっ面の相川さんは、昨日と同じく不機嫌そう。 「足、どうだった?大丈夫?」 チラッと足元に目をやれば、左足の紺ソックスが膨らんでいるのが分かる。きっと、包帯を巻いているんだろう。 「ただの捻挫、何ともない」 「折れたりしてなくて、良かったね!」 そう言って笑うと、相川さんは「別に」と素っ気ない返事。やっぱり、これが彼女の通常運転らしい。 「普通に歩けるの?」 「テーピングしてるから」 「痛くない?」 「特に」 素っ気ない態度はそのままなんだけど、相川さんが何となく何か言いたげなことに気付いた。 「良かったら、一緒に帰る?また肩貸すよ?」 「頼りない」 …この野郎。俺の右肩には微かに爪の食い込んだ跡残ってんだぞ。脱いで見せてやろうか。 「…一緒に、帰る」 「え?」 「早く鞄取ってくれば」 小さくて良く聞き取れないけど、どうやら一緒に帰ることに同意してくれた様子。 「すぐ、取ってくるね!」 ちょっと笑って、また教室へと戻る。教室ではまた理人やクラスメイトに色々言われたけど、適当に返事してすぐ相川さんと合流した。 俺から会いに行こうと思ってたから、相川さんが来てくれたのはビックリしたけど有り難い。
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