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「足、折れてなくて本当良かったね」
「大袈裟なんだって」
「でも結構、骨って簡単に折れるよ。うちの一番目の姉ちゃん、こないだ小指ぶつけただけで折れてたし」
酔っ払って例の如く上司の悪口言いながら暴れまわってたら、テーブルの脚に小指ぶつけて折れた。良くなるまで、普段の二倍パシリにされたのは思い出したくもないけど。
ちょっと苦い顔の俺と、こっちを見ないで喋る相川さん。まさか相川さんと一緒に帰ることになるなんて。俺は普段徒歩通学で、相川さんは電車通学。方向はそんなに違わないから、相川さんの駅まで一緒に歩いてる。
「早乙女君、お姉さん居るの?」
「居るよ、しかも三人も」
「…三人?」
「そう!凄いでしょ。逆の意味で」
女子からも男子からも羨ましがられるけど、俺としては強烈な姉が三人もいる現実が耐え難い。まぁ、最後に産まれちゃったもんは仕方ないから、受け入れて生活してますけどね。
「…あの、さ」
「え?」
遠い目をしながら若干の哀愁を漂わせていた俺は、相川さんのさっきとは少し変わった声色で現実に引き戻された。そう言えば、さっきから何となく何か言いたげだったよなぁ。
「早乙女君、何であんなことしたの?」
「え?」
「怪我」
「怪我?」
「気付いて、助けてくれたでしょ」
ポツリポツリと話す相川さんの言葉を繋げながら、やっとその意味を理解する。
「その前に私がどんな奴か、あの女達とのやり取り見てたから分かるでしょ」
「あ、あぁ…まぁ…」
色んな意味で強烈だった、あの場面は。俺のドSデビューは芽も出さないまま萎んじゃったしね。
「なのにその後も助けたでしょ。私のこと」
「え?助けたってほどでもない気がするけど」
「何で?普通に引くでしょ、あんなこと言ってる女」
…まぁ、それは否定しません。
「早乙女君みたいな変人、初めてなんだけど」
…さっきから何が言いたいんだ。もしかしてバカにしてる!?
って思ったけど、相川さんを見てもそんな感じはしなかった。ゆっくりと歩きながら、相川さんの視線はずっと下の方でこっちを見ない。
「…相川さん、もしかして“ありがとう”って言いたいの?」
キョトンとしながらそう言うと、相川さんはバッと顔を上げて俺を見た。眉間に思いっきり皺が寄っている。怒らせた!?と一瞬ひるんだけど、何となく白い頬が紅潮してるような…
え、もしかして図星!?ていうか、照れてる!?
相川さんの予想外の反応に、俺は思わず足を止めて相川さんを凝視した。
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