第一章「可愛いは嫌なのです」

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「渥美ねぇ、アレ貸して!アレ!」 俺は興奮気味に、三女の部屋のドアを開けた。開けた後でドアをノックしていないことに気が付いたけど、そんなことは今はどうでも良い。 「南…ノックは?」 どうでも良い、とは言ったけど般若のような顔で俺を睨みつける三女、渥美(あつみ)ねぇの姿を見てすぐに後悔した。 この顔で睨み付けられた俺が、渥美ねぇに勝てたことは今まで一度もない。最も、普段でも勝てたことなんてないけど。 「あ…ご、ご、ごめん!次は気を付けるから!」 俺を睨む渥美ねぇを宥めるようにヘラヘラ笑ってみせる。 「私今忙しい」 ブスッとしながら言う渥美ねぇは、ただベッドに転がってスマホいじってるだけ。それのどこが忙しいんだ、ただ面倒なだけだろ。 「…キモいんだけど」 ニヤニヤしてる俺への刺さる一言も華麗にスルーする大人な俺。 「渥美ねぇ、アレ貸して」 「は?アレって何よ」 「こないだ読んでたじゃん、リビングで」 ニヤニヤ顔で両手を差し出して頂戴ポーズ、渥美ねぇは未だベッドに寝転がったまま。本当だらしない、良いのは外ヅラだけだ。 「意味分かんないんだけど」 「読んでたじゃんか!リビングで読んでたじゃんか!俺にもアレ貸してよ!渥美ねぇ読んでたじゃんか!」 壊れたように同じ言葉を繰り返す俺に、渥美ねぇは若干引き気味。 「ハッキリ言ってよ、何読んでたって?」 「…漫画」 「漫画?」 「…あの、胸キュン間違いなしとか書いてあった、あの…ホラ、あれ…」 急に恥ずかしくなった俺は、徐々に言葉が尻すぼみになる。 「あー、〝ドSな彼氏に夢中過ぎて困ってます″ってやつ」 「あー、そう。確かそんなんだったかな」 勢いつけて部屋に入ったくせに、いざ借りるとなると恥ずかしい。若干カッコつけては見たものの、少女漫画借りようとしてる時点で俺は終わってる。 案の定、渥美ねぇの俺を見る目はまるでゴミクズを見るかのようだ。 「まぁ、良いから。その漫画貸して」 「何で?」 「良いじゃん」 「だから、何で?」 段々と威圧的になる渥美ねぇの言い方。 「何でも良いから、貸してよ!」 「理由言わないと貸さない」
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