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「渥美ねぇ、アレ貸して!アレ!」
俺は興奮気味に、三女の部屋のドアを開けた。開けた後でドアをノックしていないことに気が付いたけど、そんなことは今はどうでも良い。
「南…ノックは?」
どうでも良い、とは言ったけど般若のような顔で俺を睨みつける三女、渥美ねぇの姿を見てすぐに後悔した。
この顔で睨み付けられた俺が、渥美ねぇに勝てたことは今まで一度もない。最も、普段でも勝てたことなんてないけど。
「あ…ご、ご、ごめん!次は気を付けるから!」
俺を睨む渥美ねぇを宥めるようにヘラヘラ笑ってみせる。
「私今忙しい」
ブスッとしながら言う渥美ねぇは、ただベッドに転がってスマホいじってるだけ。それのどこが忙しいんだ、ただ面倒なだけだろ。
「…キモいんだけど」
ニヤニヤしてる俺への刺さる一言も華麗にスルーする大人な俺。
「渥美ねぇ、アレ貸して」
「は?アレって何よ」
「こないだ読んでたじゃん、リビングで」
ニヤニヤ顔で両手を差し出して頂戴ポーズ、渥美ねぇは未だベッドに寝転がったまま。本当だらしない、良いのは外ヅラだけだ。
「意味分かんないんだけど」
「読んでたじゃんか!リビングで読んでたじゃんか!俺にもアレ貸してよ!渥美ねぇ読んでたじゃんか!」
壊れたように同じ言葉を繰り返す俺に、渥美ねぇは若干引き気味。
「ハッキリ言ってよ、何読んでたって?」
「…漫画」
「漫画?」
「…あの、胸キュン間違いなしとか書いてあった、あの…ホラ、あれ…」
急に恥ずかしくなった俺は、徐々に言葉が尻すぼみになる。
「あー、〝ドSな彼氏に夢中過ぎて困ってます″ってやつ」
「あー、そう。確かそんなんだったかな」
勢いつけて部屋に入ったくせに、いざ借りるとなると恥ずかしい。若干カッコつけては見たものの、少女漫画借りようとしてる時点で俺は終わってる。
案の定、渥美ねぇの俺を見る目はまるでゴミクズを見るかのようだ。
「まぁ、良いから。その漫画貸して」
「何で?」
「良いじゃん」
「だから、何で?」
段々と威圧的になる渥美ねぇの言い方。
「何でも良いから、貸してよ!」
「理由言わないと貸さない」
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