第一章「可愛いは嫌なのです」

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〇〇幼稚園 年中さん 「お姫様の役、誰かやりたい子は居ませんか?」 優しい先生の声に、女の子達は一斉に喋り出す。 「南君!南君が良いと思う」 「私も!私も南君!」 「南君可愛いもん。女の子みたいだもん」 幼稚園といえど、集団の女子は怖い。俺は半べそかきながら「僕男の子だもん!やらないっ」と抵抗した。 「そうだよ皆、お姫様は女の子の中から決めましょうね?」 先生の優しい声。やっぱり大人はちゃんと分かってくれる。 先生は泣いている俺に近付いてきて、優しい声で言った。 「衣装できたら、ちょっとだけ着てみる?」 この言葉、多分死ぬまで忘れない気がする。 〇〇小学校 一年生 幼稚園の頃より皆ちょっぴり成長して、流石にお姫様なんて、言われなくなった俺。ピカピカの黒いランドセルが、凄く嬉しかったのを覚えてる。 「ねぇ、貴女ランドセル赤じゃないの?」 同じクラスの女の子に真顔で言われて、元々重かったランドセルが更にズッシリのし掛かった気がした。 〇〇小学校 五年生 借り物競争で六年生の男の子に“一緒に来て”って言われて、嬉しくて頑張って走った。 知らない人だったけど、選ばれたことはやっぱり嬉しかったし。 俺達は見事一位になってお礼も言われたし、二人でハイタッチもした。でもその後、その人の引いたお題の紙に“可愛いと思う人”って書かれてたのを知って、物凄く何とも言えない気持ちになった。 ていうか、そんなお題出すな。 そして中学時代。 俺は理人と出会い、二人でサッカー部に入った。特別上手いわけじゃなかったけど、嫌いでもなかったから。 グラウンド練習で理人がドリブルする度「カッコいい」とか「イケメン」とかって女子達の黄色い声が周囲から聞こえて。 俺がプレーしてても誰も何も言わないのに、コケたりパスミスしたりの失敗の時だけ笑い声と共に「可愛い」って言われてた。 毎日が普通に楽しかったし、学校に行くのも別に嫌じゃなかった。 でも教室でも「可愛い」とか「女友達みたい」とか言われまくって、否定しても頭撫でられるだけの日々に違和感を感じてたのも事実。 中学生男子が、これでいいのか? 三年になっても状況は同じなのに、高校に入ったら果たして変わるのか? そんな期待と不安を胸に高校へ入学して、俺なりに可愛いって言われないようにしてたつもりなのにやっぱり女子の口から俺へ向けられる言葉は「可愛い」だった。
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