第二章「美少女降臨」

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「…別に怪我してないから」 口調にはさっきの力強さがない。意外と嘘が下手なタイプなのかも。そう思うと、ちょっと強気になれた。 「なら、ジャンプしてみてよ。できたらもう何も言わないから」 「…」 「できない?ならやっぱり怪我してるってことだよね?大丈夫?さっきの先輩達にされたの?」 「…違う」 「じゃあ、元々足が悪い?」 「それも、違う」 じゃあ、何だろう。まぁ、何にせよ元々足が悪いわけじゃないなら、怪我してるんだ。歩き方見ただけで分かるくらいだから、結構酷いのかも。 「保健室行こうよ、まだ空いてるだろうし。はい、俺の肩掴まって」 捉まりやすいように少し屈んで右肩を突き出す。男子の中では小さめの俺だけど、彼女とはそれなりに身長差がある。 「え、やだ」 しかめっ面で拒否。 「嫌でも我慢してよ。ほんとはおんぶとかしてあげたいけど、正直自信ないから」 こんな時、理人なら軽々お姫様抱っことかしそう。けど、俺がしたら多分落っことしそうだし。 「…」 肩を突き出して、約十秒。一向に掴もうとしない彼女に、俺は痺れを切らした。 「ちょっと!そんな嫌なの?シャツ洗ってるから汚くないし、今そんな汗かいてないから大丈夫だって!」 「そういうんじゃない!もう、良いからどっか行ってよ!」 「行かない。無理に動かしてたら余計酷くなるかもじゃん。肩貸すくらいじゃ意味ないかもだけど、しないよりマシでしょ」 俺は彼女が右肩に掛けていたカバンを引っ手繰るようにとった。予想外だったのか、彼女は驚いている。 「ち、ちょっと、返しなさいよ!」 「保健室着いたら返すから、早く掴まってよ。このままじゃ俺も帰れないじゃん!」 「だから、私のこと放って勝手に帰れば良いでしょ!」 「そんなことしたら、後味悪いじゃん!俺は俺の為にしてるだけなんだから、良いのっ!」 ちょっと強引過ぎる気もしたけど、強情な彼女に俺もついムキになってしまった。カバン獲ったのは、やり過ぎだったかな… 「…分かった」 根負けしたのか、溜息交じりにそう言って俺の肩に手を乗せる。 …何だこの感じ。熊手懐けるとこんな気持ちになるのか? なんとも言えない不思議な気持ちを感じながら、できるだけゆっくり歩いた。 「アンタって、ホントお節介なやつ」 「良く言われる」 「バカだし」 「それも良く言われるよ!」 ムキになって言い返す俺に、彼女はそれ以上何も言わなくて。俺も、黙った。 「…肩だけでも、結構重いね」 「黙れ、ひ弱」 なんて悪態吐きながらも、結局保健室に着くまで彼女は俺の肩を離さなかった。寧ろ、掴み過ぎて指食い込んでる。痛い。
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