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工の前にジュリが性適合手術を終え現れた。
戸籍は女になり、伊丹とも正式に親子になったと言った。
元々政龍組系の構成員ではなかったが、伊丹の娘としてだけ生きていくと言う。
今日は、飯塚組長の屋敷に来ていた。
幹部と真幸が飯塚組長に呼ばれたのだった。
工はもちろん真幸の護衛である
2人は屋敷の庭で話をしていた。
「なんか、あまり変わらねーな」
ジュリの姿を見て、工はポツリと呟いた。
「見た目は元々、女だったからな。穴開けただけだし」
全く性格も変わってないジュリを見て工は笑う。
「だけどさ、この穴が曲者なのよ。ちゃんとケアしないと塞がっちゃうんでね。工の突っ込ませてやろーか?」
楽しそうにジュリは言う。工は呆れた顔でジュリを見る。
「まあ、そのうち好きな男でも作って、そいつに協力してもらえ」
「好きな、男、ね。どうかなぁ。好きな男なんて、出来るのかな」
らしくないほど寂しい顔でジュリは言う。
「いつか好きな男とセックスするために、女になったんじゃねーの?」
工はジュリを見つめる。
「そのうちセックスはするかもしれないけど、好きな男とできるかは分かんないけどね」
ジュリはそう言うと池に顔を写す。子分がうるさいので、今日は石は投げ込まない。
「僕はもう好きな人を作るか分からない」
ジュリがそんな風に思うのは、父親にされた事が原因かと工は思った。その過去のトラウマで、人間不信に陥ってるのかと想像した。
「昔ね、とってもとっても好きになった人がいたんだ」
ジュリの意外な言葉に、工は聞き間違えかと思った。想像が覆された。
「多分、初恋だったんだろうな。優しくて、頭が良くて、カッコよくて。その人と、大人になったら結婚するって決めてた」
ジュリは想い出を思い出すように語る。
「その男とは?」
工が尋ねるとジュリはニヤリと笑う。
「秘密。なんでお前に教えないといけねぇんだよ」
初めから、わざと勿体つける気だったなと工は思った。
「じゃあ、もう聞かねぇよ。お前の初恋なんて、俺は興味ねぇ」
工はそう言って伸びをして欠伸までする。
「言うと思った」
面白そうにジュリは言う。
「あんたは相変わらず、花を手向けてんの?」
絶対工が語らないのは分かっているが、なんとなく聞いてしまった。
工との絡みが、ジュリは嫌いでなかった。
「ああ。相変わらずな。それしか出来ねぇ」
工は悲しい顔をする。それしか出来ないのが悔しくて仕方ないといった顔だった。
「やだねー、お互い。何、縛られてんのかね。バッカバカしい」
ジュリはそう言うと工の背中をバンと叩いた。
「だな」
工はそれだけ言うと、叩き返すかと思ったが叩き返さない。
「なんだよ、叩かねーの?やられたらやり返すんじゃねーの?」
ジュリが笑いながら言うと工はクスリと笑う。
「女には手をあげねーよ」
工の言葉にジュリは吹き出す。
「ばぁか。カッコつけんな」
「だな」
工そう言うと、ジュリの頭をポンポンとする。
「な、なんだよ!」
恥ずかしくなって、ジュリは少し頬を赤らめて工に言って睨む。
工は余裕の顔でジュリを見てただ微笑んだ。
「くそッ。ちょーし狂うってぇの」
そう言って、プイとジュリは顔を背ける。
「お前はちゃんと好きな奴見つけろよ。もっと幸せになれる」
工の言葉にジュリはフッと柔らかな顔をした。
「ばぁか。言われなくても、分かってる」
工もジュリに背を向けて、真幸たちのいる部屋をジッと見つめた。
工は真幸のことで頭がいっぱいだった。
もう、真幸が傷つく姿を見たくなかった。
本気で愛した男を失い、心の均等が崩れ、いつまた発作的に命を落とすか分からないほど脆い真幸を、恋人だった乙也と重ねてしまう。
美しく繊細で優しかった乙也。
乙也を死に至らせてしまった原因は自分にもあるのに、自分は乙也の様に命を落とす事もできず、ただ何のために生きているかも分からない。
生きる希望をくれた真幸がもし死んでしまったら、工はもう生きる希望はないと思った。
真幸を守るのは、乙也への贖罪と語ったのは嘘ではない。
愛した乙也のために生きることを決めた自分が、乙也の代わりに真幸を守ると、真幸に出会った時に決めた。
頭に対してのこれは決して愛ではない。
俺が本気で愛し、死ぬまで愛し抜くのは乙也だけ。
言い聞かせる様に心に刻む。
真幸に奪われている心を消してしまいたい。
もう二度と、誰も愛さないと改めて誓った。
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