冷たい水

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御笠泉水、36歳。 御笠グループのCEOである。 財力だけではなく、容姿にも恵まれていたが未だ独身。 幼い頃から家族との思い出も一切なく、世話をしてくれたのは家政婦と使用人だけだった。 両親は泉水が産まれると、後継を産んだ責任を果たしたために、それぞれに愛人を作りほとんど家にも帰ってこなかった。 ただ御笠グループの後継者としての教育だけは厳しく、今ある泉水は大学生になるまで他人に育てられていたことになる。それ故、家族を持ちたいとも思った事が無かった。 初体験は中学三年生の時、新任の担任の女教師だった。 家庭訪問に来て、初めて泉水の家庭の事情に同情した担任に、泉水は甘えるふりをして関係を迫った。 美少年で日本屈指のグループの御曹司。抵抗する理由がない。 そしてその関係は、泉水が中学を卒業するまで続いた。 高校生になってからは複数と関係を持ち、女同士の醜い争いを見てきた。 しかし、何人もの女達と関係を持っても泉水の心は癒されない。 そして大学二年生になったある夏の日に、サークルの後輩、土方理から告白をされ、興味本位と寂しさから理の告白を受け止めた。 「俺、女としかやったことないから」 「分かってるよ。僕が気持ちよくしてあげるから」 「……男と付き合うの、俺で何人目?」 「三人目」 泉水のモノを舐めながら答える。 理にされる事が気持ちよかった。 付き合ってきたどの女よりも、男ゆえに、流石に男の身体を知っている分ツボを押さえていた。 「その、コレ挿れたりするのか?」 「僕は正直、挿れるのも挿れられるのも好きじゃないんだ。舐めるだけじゃ物足りない?」 泉水は答えようがなかった。 男の中に挿れたいと言う事を思った事がないからだ。 これで他の女とセックスしたら、浮気になるのかな。 変な事を思いながらも、理の口の中に毎回果てていた。 泉水は正直、理にされる事が嫌でもないし、理を可愛いとも思っていた。 抱きしめてキスもしていたし、乳首を弄らせてくれれば、特に挿れる事に泉水もこだわりはなく、それなりにお互いを大事に交際は続いていた。 しかし、事件は起きた。 いつものように、理の部屋に泉水は向かっていた。 理の部屋の前でインターホンを押すが返事がない。ドアに手を当ててドアを引くと、すんなりドアは開いた。 「理?」 泉水が部屋に上がると、ギシギシとベッドの軋む音が聞こえて、何かくぐもった声が聞こえる。 「理、いる……」 リビングの奥のベッドの上で、理は口にタオルを巻かれ、後ろ手にネクタイで手首を絞められ、ワイシャツを着た若いサラリーマン風の男に犯されていた。 泉水と理の目が合った。理が泣いていた。助けを求めるような顔で泉水を見た。 「なんだよ、お前」 若い男が泉水を睨んだ。 「何?今カレ?」 邪魔されて気がそがれたのか、若い男は動きを止めた。 泉水はショックで声が出せない。 理が他の男に犯されているのが堪らなく嫌だった。 「なんだよ。お前も理に焦らされてるクチ?こいつマジやらせないだろ?」 「俺は、別にあんたみたいな事を望んでない。ただ理と居られれば良いんだよ」 泉水がそう言うと、元カレらしき若い男は笑う。 「何ぶってんだよ。本当はやりたかったんだろ。しかしこいつもバカだよね。簡単に俺のこと家にあげて、彼氏にこんな姿見られてさ」 「どうして理の所に来たんだよ!なんの用があって!」 「暇だったから。営業でその辺回ってたらこいつを思い出してさ。久しぶりに会ったら、やりたくなって」 にやけて言う元カレに泉水は腹が立ってきた。 「邪魔入ったし、俺、帰るわ」 元カレは理の手首からネクタイを外すとそれを締めた。 「俺が穴広げておいたから、たっぷり可愛がってやれよ」 元カレはそう言って部屋を出て行った。 「大丈夫か!ごめん!助けてやれなくて!」 泉水は理を抱きしめてタオルを外した。 「僕こそ、ごめんなさい。僕が油断したから。忘れて行ったものがあるって言われて、部屋にあげたから」 「何も言わなくて良いから!俺は別に気にしないから!」 理はワンワン泣いた。悔しさと泉水への後ろめたさに。 「泉水が、上書きして僕を元に戻して!あいつをデリートして!」 そう言われても泉水はどうして良いか分からなかった。 「……無理だよね。ごめん。嫌だよね、アイツが今挿れてたんだもんな」 「違う!わかんないんだよ!理がそれは嫌がってただろ!なのにそんなことして良いのか、わかんないんだよ!」 泉水は理をただ抱きしめるのが精一杯だった。 その数日後、理から別れ話をされた。 あんな場面を見て、見られて、この先はお互い傷つくからと言うのが理由だった。 泉水は別れたくないと言ったが、理は辛いからとそれだけ言うと泉水から遠ざかって行った。
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