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過去の僕へ
久しぶり!
僕が会社から帰ってくると、妻が部屋を掃除していた時に、過去の僕からの手紙をたまたま見つけて、再会することが出来ました。
過去の僕が一生懸命勉強してくれたおかげで、私は銀行に入行することが出来、妻と4人の子供も得ました。本当にありがとう!
長男は私と同じ銀行に入行することが出来た。結婚して、子供も居る。支店は違うけど、一生懸命やっているようで悪い評判は聞かない。
長女も結婚したけど、離婚して今は実家に帰省(寄生)しながらパートで働いている。やっぱり、大学は出ないとダメだ。女性差別もあるのだろうが、高卒では非正規の仕事にしか就けない。現在は婚活している。婚活は「結婚活動」の略だ。
君の時代には無かった言葉もいっぱい生まれた。
インターネットって言われても、何のことだか分からないだろ? パソコンを覚え、携帯電話を覚え、今度はスマートフォンだ。自分をアップデート(更新)出来ないと今の時代はダメだ。すぐに時代遅れになってしまう。
次女はそんなお姉さんの失敗を見ながら育ったからか、ちゃんと大学は卒業し、無事に正社員になることが出来た。世間では「転職」を謳っているけど、「メディアや報道に惑わされるな」とよく言っている。銀行で信用の重要性をよく知っているから、どんなに職場がつらくても転職するなと教えた。
次男は就職活動が終わり、内定も取れた。それは嬉しいけれど、長女は可哀想だ。長女の頃はリーマン・ショックと云う、世界恐慌のような不景気に影響されて就職が難しかったんだ。少子化が進んで、人数の多い上の世代が抜けたおかげで今じゃ人手不足で簡単に採用される。(政府は景気が良くなったって言っているけど、大ウソだ。銀行はマイナス金利のせいで収益が悪化して、大変な思いをしている。)
妻や子供達、孫の名前は教えてあげないよ。それは、君が将来名付けるんだからね。
君が憧れていた清原和博は覚せい剤で捕まってしまった。桑田真澄は、到底手に届かない尊敬すべき医大な野球人になった。受験勉強そっちのけで君もテレビで見たドラフト会議、やっぱりあそこで巨人に選ばれなかったことが清原の人生を狂わせてしまったと思ってしまう。当時の僕はプロ志望届も出していないのに、自分の名前が呼ばれるんじゃないかって本気で願っていたけど。
銀行は金貸しだ。でも君の過ごした青春時代よりも景気が物凄く悪化して、なかなかお金を貸せない。
銀行員になると、学歴や経歴の大事さを凄く痛感する。
「借」と云う字は、人の昔って書くだろ?
信用情報は「人の昔」なんだ。学歴まではあまり調べないけど、何処の会社に就職して、どんな仕事をし、どれだけのお金を稼いで、それらの「人の昔」が積み重なって「信用」って言葉になる。信用出来ない奴は、その「人の昔」が積み重なっていない。
現金のことをキャッシュって云うけど、日本人は英語が苦手な人が多いせいか、キャッシュを「信用」って意味だと誤解している人多い。キャッシュ(cash)はあくまで現金って意味だ。信用の英単語は、君が自分自身で英和辞典などを駆使して調べて覚えてくれよ。いちいち何でも教えないから。
IT(情報技術)が進んで、「ヒトモノカネ」から「ヒトモノカネ情報」って云うようになった。
それと同じように、キャッシュ(cache)って言葉も使われている。貯蔵庫って意味だけど、よく使うデータに素早くアクセスするために、読み出しの速い記憶領域に一時的に保存して、すぐに再利用出来るようにするための電子機器の仕組みのことだ。
手持ちの現金って、すぐ利用出来るように財布に入れるでしょ? だから、こちらのキャッシュ(cache)の方が現金や財布の意味としては正しい気がする。
なんで、こんな話をするのかと云うと、君=「過去の僕」が受験を控えているからだ。
知らない英単語なら自分で勉強するでしょ? だから、それらをいちいち調べろとお説教する必要は無い。
知っている言葉こそ、自分で辞書を引いて、本当の意味や元々の使われ方を調べて欲しい。大学受験の問題はそこを問うことが多い。信用=「人の昔」を見定める今の私の仕事だと、皆が当たり前に使っている言葉や情報、慣用句などを、どのように使っているかで、どんな人となりかが分かる。
例えば、「電子レンジに猫を入れないで下さい」の話があるでしょ。あれはブラックジョークで、実際には存在しない都市伝説なんだ。けれど、あれが本当の話だって思い込んでいる人が居て、そういう話を本当のことのように語っていると、「人の昔」の高が知れるんだよね。言葉に「人の昔」が出るから。
手紙をくれて本当にありがとう。
自分自身の「人の昔」をこうして手紙として読めて、私は過去の僕である君に本当に感謝している。
幸せを掴むために、一生懸命受験勉強に励んでください。
平成30年10月8日 自分で建てた世田谷区の自宅にて
未来の君 佐藤賢一より
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