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骨だけでも愛して
仕事の帰り、自宅の最寄駅に着くと、外は絵に描いたような土砂降りだった。
天気予報では、今日は晴れだったはずなので、折り畳み傘すら持ち合わせがない。
「ついてないなー」
誰にともなくつぶやき、途方に暮れていると、
「コレ、よかったら使ってください!」
勢いよく傘を渡された。
「え、いや、そんな…」
と言ってるうちに、その若い男性は走り去ってしまった。
ありがたいなー、こんな事が現実にあるんだなー。という思いは、傘をよくよく見て消え去った。
その傘には骨しかないのだ。
手の込んだイタズラだなーと思いつつ、私は骨だけの傘を開いてみた。
するとどうだろう。
不思議なことに、土砂降りだった雨が、およそ2秒でスパッと止んだのだ。
これは凄いものを手に入れてしまった。
治水の整っていない発展途上国でこれを使えば、一躍「神」と崇められるのではないだろうか。
そういえばさっきの彼、どことなく未来人のような雰囲気を醸し出していたような気がしなくもない。
次の休日、私はこの傘の効果を確かめてみたくなり、大台ヶ原に車を走らせた。
大台ヶ原の年間降水量は、屋久島に並び日本一なのだ。
大台ヶ原の山頂に着き、車を停める。
ほどなく雨が降りはじめ、バケツをひっくり返したような土砂降りになった。
「よし、今だ!」
勢いよく骨だけの傘を開く。
しかし何も起こらない。
あかん、コレただの壊れた傘や。
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