0人が本棚に入れています
本棚に追加
燃えよストラト
俺が最初にスティーヴィー・ウィンターのプレイを聞いたときに衝撃を受けたのは、彼のギタリストとしてのテクニックよりも、その音だった。超絶技巧ばかりが目立つ数多のロック・ギタリストのそれとは明らかに一線を画していた。それは大地を揺るがす地響にも、空を引き裂かんばかりの雷鳴にも似た、魂を揺さぶる音だった。身体を突き刺し、そして引き裂くような音だった。
自身のプレイに行き詰まっていた俺は、まるで初めてギターを手にした中学生のように、ひたすら彼のプレイを真似ようとした。ギターの弦を彼と同じゲージに張り替えるのはもちろんの事、真空管アンプ直結で鳴らす彼と同じアンプを手に入れ、それをスタジオに持ち込んでは彼と同じセッティングにして鳴らし続けたが、どうしても彼のような音は出せなかった。思い余って俺は彼と同じ真っ赤なストラトを探しに楽器屋を訪れたが、ピックガードまで真っ赤な彼と同じストラトは見つからなかった。諦めきれずにネットでも探してみたが、やはり彼と同じ真っ赤なストラトは見つからなかった。意を決して俺は、その真っ赤なストラトを著名なギター・ビルダーにオーダーした。そしてその真っ赤なストラトが出来上がったとの連絡を受けて工房で直接受け取ったその足でスタジオに入り、いつものように、アンプを彼と同じセッティングにして、祈るようにE7#9を鳴らしてみた。
「これだ!この音だ!」
俺は薄っすら涙まで浮かべて、その真っ赤なストラトでスティーヴのフレーズを弾き続けた。それはライブ映像を何回も観て、それこそ中学生がそうするように彼の身振りまでも完璧にコピーして、このスタジオで何回も弾き続けたフレーズだった。
俺は貸時間ギリギリまで真っ赤なストラトでスティーヴのフレーズを弾き続け、そして時間が来るとアンプの火を落とし、これで彼の音は完璧にものにした、次は俺の音を創り出すという意気込みを持ってスタジオを後にした。そして俺は駐車場でアンプを車に積み込み、真っ赤なストラトは助手席に置いて今夜BSで放送される彼のライブの放送時間に間に合うように家路を急いだ。
テレビの前でも俺はその真っ赤なストラトを抱えて放送が始まるのを待った。放送が始まりスティーヴがステージに現れると彼は白いボディーに白いピックガードのストラトを抱えていた。その時俺は、あのライブ映像では、スティーヴの顔も真っ赤なライトに照らされていたことを思い出した。
完
最初のコメントを投稿しよう!