Just in Love

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いつも通り5時に起きて、ピアノ室でハノンを1時間半練習したあと、俺は旧音楽室へ向かう。 だけどひとつだけ、いつも通りじゃないことがある。 手にしている携帯電話の液晶に、可愛いウサギのスタンプが映し出されていることだ。 「おはよう」と俺に挨拶をするウサギに、俺は「おはよう」と返事をする。 10秒もしないうちに「昨日は何時に寝たの?」と尋ねられて……、ちょっと悩む。 昨日はピアノ室から自宅へ帰ったあと、少しだけテスト勉強をして寝た。 「1時くらい」 そう送ってすぐ、「雪乃は?」と質問を返す。 誠吾が言っていたんだ。 女の子との会話を途絶えさせないコツは、疑問形を投げ続けることだって。 俺の質問に「私も來君と同じ!」とメッセージを返してくれる雪乃に、自然と口角が持ち上がる。 「雪乃って呼んで」と言われたから、そう呼ぶことにした。 俺も呼び捨てで構わないと言ったけれど、「來君って呼びたいな。響きがキレイだから」と言われて……、俺は初めて女の子から”來君”と呼ばれることになった。 ”來”と呼ばれたことも、”來人”って呼ばれたこともないんだけれど……。 女の子と話す機会がなかった俺にとって、雪乃との会話やメッセージのやりとりは新鮮だった。 送られてくるすべての言葉が可愛くて。 告白されて1週間も経っていないけれど、なんとなく「これが恋なのか」と。ゆっくりと自覚していく日々。 もうそこまで訪れてるだろう俺の初恋。 無意識に選んだ曲はショパンだった。 ノクターン第2番変ホ長調は、菊池さんに初めて教わったショパンの曲。 確か……小学2年の時だったと思う。 装飾され尽くした甘美な旋律を俺はずっと理解することができなかったけれど、いまはちょっとだけわかる気がする。 そんな俺の耳が捉えたのは、 「……え?」 壁の向こうから聞こえる、小さな泣き声だった。
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