柏木くんのこと 2

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 おまけに面倒なことに、こいつも溝口も自分の障害を心底憎みながらそれが自己のアイデンティティの根幹になっている。  もしも俺が障害者でなかったら、と考えてはいけないのだ。凡人になっちゃうからね。だから柏木くんにはもう、自分しか見えない。俺が俺であるためには障害者のレッテルがどうしても必要。そのレッテルは、柏木くんが自分で貼ったものだ。これはまあ、剥がせないんだろう。そのレッテルが邪魔をして、実際にはこいつは女にモテているのだけれども、それすら自分で認識もたぶんできていない。  出会い頭に女の前で転んでみせて、お前のせいだぞ抱き起こせ(意訳)と怒鳴りつけるあたりなんか最高だ。  たぶん柏木くんは、普通のひとより声が大きい。そしておそらく、背が低いと思う。あの脚じゃろくすっぽ運動できないだろうし。たぶんどこにも書いていないので、極端に低くはないのだろうが、少なくとも平均身長よりは低めだろうと予想。背が低くてこれだけプライドが高くて頭がいいとなると、声は大きいのが自然に思う。  それでこれだけ弁が立つんじゃ、うるさくてかなわん男だ。  目立つだろうな。  目立つんならそれはモテるんだよ。まあ、半分くらいの確率で。  そして柏木くんは本当にモテるんだけど、その後が素晴らしい。 「こいつ俺の障害が好きなんだな。だってそれしか俺に個性なんてないもの」  すごい理屈だ。おまけにその理屈が柏木くんの主観のなかで完全に成立しているのが本当に最高だ。  かわいい。本当に、かわいすぎる。そしてほぼ完全に間違っている。  この視野狭窄と凝り固まった自己愛が、インテリのイケメン(推定。でもたぶん事実だ)と重なったら、それはもう凶器だろうよ。刺さるしかない。
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