柏木くんのこと

柏木くんのこと 2

　このひとは本当に賢いひとなのに、ただひとつ自分というものから逃れられないがために、理屈の根底が誤っていてゆえに結論が全部とんでもないところに帰結する。

　ナルシストと呼んでいいはずだ。卑屈なナルシスト。最高か。ああ、最高だ。

　このひとの卑屈っぷりは、例の童貞の話でふんだんに披露されており、まあなかなかにレベルの高い話だからじっくり読むといいよ。この卑屈さが、かわいい。そしてまさかかわいいという感想を持たれると思い至らないから溝口ごときにぺらぺら喋る。

　それとも嘘なんだろうか。嘘だったらこの内容にはならない気がする。柏木くんは他人からかわいいと思われたらきっと、恥ずかしくて怒り出すんだろうから。

　ああ、かわいいなあ。かわいい。どうしてこんなにかわいいんだろう。信じられないよ。

　まあ溝口はバカだからなぜか感銘を受けていたが。溝口、そこじゃないだろ、そこじゃ。お前の目の前には今、世界でいちばんかわいい男が喋っているんだぞ。