柏木くんのこと 2

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 溝口というのがまあ、なかなかの抜け作で、こいつの目を通してしか柏木くんが見られないので、なんだか大変もどかしい。 「彼の哲学が詐術にみちていればいるほど、それだけ彼の人生に対する誠実さが証明されるように思われたのである」 そうかあ? 柏木くんの理屈って割と単純なものだよ。誠実さというか開き直りだよ。殊勝な障害者になんてなったら、凡人にすらまけてしまうんじゃないかという強烈な劣等感が露悪に向かっているだけで、ただ持ってるものを非常に有効に使って同情ひいてるだけじゃないの。  私は全然、同情しないけど、その作戦に出た柏木くんのその脳みそが、愛おしくてたまらないよ。  溝口の話は基本的に柏木くんを理解できていない気配しかしないので、柏木くんの彼女(柏木くんは美形のお嬢様としか付き合わない)の話の方が、柏木くんの本質を捉えているはずだ。 「柏木の非行、その悪どい卑劣な細目、それらはすべてただ「人生」という言葉を私の耳にひびかすだけだった。彼の残忍性、計画的な遣口、裏切り、冷酷、女から金をせびりとるさまざまな手、それらはただ彼の言いがたい魅力を解説しているにすぎなかった」(溝口・談)  いやいや、聞き流してないで? その詳細の方が余程大事なことなんだわ。溝口の感想だともうまるっと違ってるからね? 女の言ってるその残忍ぶり、の方が絶対事実に近いから! 女がキレて溝口に愚痴ってることをさっぴいたって、まだまだ溝口の意見よりは役に立つというのに、このぼんくらが……!
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