柏木くんのこと 2

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 最後に溝口のやらかしについて、柏木くんが何を思ったかは小説の中に書かれていない。きみは何を思っただろうか。アホの溝口がやったことを、どんな風にきみのその冷徹な瞳が映したんだろうか。きみのその冴え渡る脳細胞はどう処理したんだろうか。  たぶん柏木くんはブチ切れたんだろうね。奇麗な常識人だよ、きみは。本当にかわいそうで愛おしい。  禅ってたぶん、常識を打ち破ろうとすることだったんだろうな。柏木くんはずっとずうっと、悟れない。溝口も悟ったわけじゃないと思うけど、溝口なりの理屈だとか怒りだとかなんやかんやそういうものはたぶんあって、ただそれには私は何の興味もないんだけど、溝口は最後に「行為」を選んだから救われていて、たぶんそれは禅の思想が如実にあらわれている箇所なんだと思う。こいつらがお寺の子に設定されている意図がそこに見える。  南泉斬猫の公案で、柏木くんが趙州で溝口が南泉っていうのは、たぶんこの小説のテーマなんだろう。ずっとぶれずに奇麗に筋が通ってる。すごく美しい。そして趙州の方が上品だと私は思うよ。たとえ柏木くんが最低のゲス野郎でも。  柏木くんの魂があまりにも美しくて、生々しくて愛おしい。  柏木くんがこの自意識から自由になる日は来るんだろうか。このひと仏教信じてないから、ダメな気がする。こういうひとにこそ宗教って役に立つはずなのに。お寺の子なのに。バイト感覚でお経上げに行ってんのに。だがその「救われなさ」があまりにも、萌える……。  流石に文豪の萌えはレベルが高くてあられることよ。  こういうハイレベルな萌えを、ちゃんと萌えられるひとはどれだけいるのだろうか。  いやそもそも、三島先生は彼をどういう風に読んで欲しかったのだろうか。それとも彼はあくまでも添え物で、溝口を愛でるべき小説なのだろうか。  私はできるかぎり誠実に、萌えと向き合ってゆきたい。  あと、やっぱり何度考え直しても、柏木くんは俺の嫁。それだけはきっぱりと断言。  こんなかわいい柏木くんを、愛さずになんていられるものかよ。  
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