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柏木くんのこと
金閣寺を再読した。実際には何度目かは分からないが、おそらく片手で足りる程度には、違いない。
いやはや、流石に面白い作品である。ここのところ文学という迷宮の中で完全に羅針を壊してしまった私に、久しぶりに輝く北斗星のような物語であった。
文学とは、なにか?
何があれば、あるいはなければ、文学たり得るのか。
純文学と文芸とライトノベルとネット小説の、その隔たりの、その一番のキモは何であるのか。万人にとってでなくてよい。私にとってせめてその根拠さえあれば……。
そんな風に思いながら、新しい日本文学とかつての隠者の文学と、そして近代を、読む。海外からはラディゲとサリンジャーを。私の旅は自家撞着しながら、一人、のたうつ。
だが今日は三島という偉大な光明をみた気がする。
純文学に、それも、あのときあんなことをしなければいずれ世界最高の賞を与えられたに違いない文学者の作品に、まさか、萌えをみるとは……!
萌えて、いいのだ。
柏木くんをみてみろ。こんなに、こんなに萌えるではないか。かわいいじゃないか。クソみたいな野郎だけど、そこがすごくいいじゃないか。
共感? 愛されるキャラ? 片腹痛いわ!
だってこの数時間の読書体験で、私はこんなにも柏木くんを愛してしまったではないか!
このほとんどプライドでひん曲がったDVクソ野郎を!
柏木くんは、自分しか見てない。
溝口は金閣までは見ているけど、もう、柏木くんには自分しか見えてない。視野狭窄もいいところだ。こんなに、こんなにインテリなのに。
もう、三島の凝りに凝った文体だとか、遠回しな描写とか、ストーリー全体にばらまかれた細かいあれこれなんか、全部吹っ飛んでしまったじゃないか。
柏木くんが喋るたび、柏木くんが歩くたび、もうそれだけでリーダビリティ抜群じゃないか。
文豪がこんなにも萌えキャラを書いてくれたんだったら、もう、迷うことなんて、ないじゃないか。
文学は、ひとだ! きっとそうだ! たぶんそうだ! と……思う……気が、しないでもないぞ!
今はそれでいい。
私は今日のこの気づきをここに残そう。どうせまたすぐ忘れるんだから。
一番大切なことは、これ。
柏木くんは、俺の嫁!
……でも柏木くんってもしかして、三島先生の投影だったりしてない? え……それはちょっと……え……?
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