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月曜日の朝、シャワーを浴びて寝室に戻った時、キシは眠っていた。枕に半分埋まって寝息を立てるのを見ていると、彼はふと両目を開けた。 「あ。おはよう、起こしちゃった」 「おはよ。まだ早くない?」 くぐもった声で呟きながらこっちに手を伸ばすのでベッドに腰掛けて、髪を拭こうとした途端、引き倒された。 「あー待って」 「お前、髪びしょびしょじゃん」 キシは嫌そうに言った後で、妙な顔をした。 「ドライヤー、前から使わなかったっけ」 「うん。どうかした?」 「何でもない」 キシはゆっくり仰向けになり、手を口元に持っていって、何か考える様子だった。僕は体を起こして髪を拭いたが、キシは怖い目で天井を睨んでいた。気になって覗き込むと、彼は表情を和らげて、 「いいから拭け」 と笑った。タオルをサイドテーブルに置いたら、また後ろから引っ張られた。 「なんだよ、もう」 「キスする」 もう一度覗き込んで、唇を軽く合わせた。キシが片手で頭を押さえるので、僕は舌を出して彼の口の中を探り、彼が舌で応えるのを待って唇を離した。 半分開いている口に中指を突っ込むと、キシは結構強く噛んだ。反射的に抜こうとしたが、キシは僕の手を掴み、そのまま指を舐め回して、舌で口の中に押し当てた。濡れた粘膜が熱く、きつく締め付けてくる感覚で、僕はうっとりしながら彼の唇の端に唇を押し付けた。キシは僕の指を解放して、舌を絡めてきた。 「お前さあ」 僕の体をベッドの中に引き寄せながら、キシが囁く。 「早朝からエロいことすんなよ」 「普通じゃん」 彼は後ろから僕を抱えて、頸に唇を這わせた。 「電車乗り慣れないから、早めに出る」 「会社行かなきゃだめ?」 「月曜だし。スーツ着てきたし」 手が前に回って、Tシャツの裾から滑り込んだ。腹から胸へ撫で上げられ、敏感なところを指で探られて、ちょっと息を飲んだ。 「ここ好きだね」 「別に」 「昨日、すごい感じてなかった?気のせい?」 「気のせい」 キシはしばらく続けていて、ふと手を僕の首に掛けて、角度を変えた。 「やっぱり、キスマークとか付けても、すぐ消えるんだ」 と低い声が耳元に響いた。 「そう?」 「アナタは、そういう悪魔的なとこがあんだよ」 振り向くと、キシは真面目な顔をしていた。 「ちょっと掴んだら指の跡がついて、した後、あちこち真っ赤になって、でも朝になったら消えてる」 「なんの話?」 「アナタの話。いじめたくなる理由」 キシは体勢を変えて、僕の上になった。言葉遊びなのか本気で言っているのかわからなかったが、キシは僕をしばらく黙って見下ろしてから、体重をかけて抱きしめた。寝起きの体はいつもより重く、熱かった。 「キシさん。キシさんがいれば、僕は他に何も要らない」 「上野くん」 「気が済むなら、傷でも何でも付けたら?」 キシが言ったのと似たようなことを、違う言い方で、何年も前に誰かが言ったことがあったのだ。 僕はその男に何の気持ちもなかったのに、傷でも何でも、と今と同じことを言って、背中にみみず腫れを何本も作った。ひどい痛みでシャワーのお湯がかけられず後悔したが、すぐに治って、傷痕は残らなかった。 キシは顔を上げて、頬を優しく撫でた。いつものように。 「ごめん。傷なんか付けない」 「うん」 「ただ、お前が欲しいね、すごく。自分でもどうかしたかと思うくらい」 キシの手が触れている頬に血が上るのがわかり、僕は思わず笑顔になったが、キシは笑わなかった。
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