カナリアの夢

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カナリアの夢

私は田舎の高校に通う佐倉美月18歳! 美月(ミツキ)の名は、 父河野(カワノ)洸太(コウタ)が私の産まれた 病院の前を流れる川に美しい月が 映っているのを見て苗字と合わせると 「川の、美しい月」と連想して響もいいので、 そう名付けたと母から聞きました。 でも ......私が2歳の時に両親が離婚して...... だから私は父の顔を知りません! 父への憧れと歳上の人を好む癖がある私は、 時々母を心配に、させてるみたいです。 離婚後は、母方に引き取られたので読み方は サクラ ミツキ!なのです。 四月生まれなので、桜を連想して美しい月! 単純ぽいけど、これはこれで気に入ってます。 夢は歌手になる事で日々レッスンしています。 お母さんの家計に少しでも足しになるように、 アルバイトをしていますが...... 田舎なのでバイト先が余り有り無くて! 転々と! 今日も昨日から決まった 駅前のコーヒーラウンジでアルバイト! 性格は明るいので向いているかも? ですが、初日卒無く出来るのに2日目にポカをするクセがあるので、今日は要注意なのです! 「佐倉ちゃん!初日はソコソコ出来たから、 今日はフリーで、頼むよ!くれぐれも、 粗相の無いようにね」 少し馴れ馴れしいオーナー! 幾ら私の歳上好みもオーナーだけは苦手かな? でも返事はしっかりと! コーヒーラウンジは 間仕切りの有る喫茶コーナーと 待ち合いの沢山あるテーブルと椅子の ふたつのコーナーに分かれています。 喫茶コーナーに入られるお客様は、間違い無く 接客なのですが待ち合いの方は、 座っているだけでは、お客様では無く テーブルの呼び出しボタンを押されてから、 接客というシステムに成っています。 ひとりテーブルの上に書類を並べ 悩み顔の青年? そのテーブルからの、お呼び出しに 私は素早く、 お冷とメニューを持ちお客様の元へ 近付いた時ふと目に入った、 書類と退職願いの文字 私は見てはいけない物を 見てしまったような気に成り 集中力を欠いた瞬間......やってしまった! お冷を、 お客様のズボンにこぼしてしまいました。 「すっすみません!申し訳ございません」 慌てて片付ける私を見て オーナーもすかさず、その場に 「何やってるの!お客様!お怪我や、 お召し物、書類などは、大丈夫でしょうか!」 オーナーの叱責に私は只々、 涙目で謝るばかり。 すると青年は「お冷ですし、怪我や病気に成るようなものでも無いですし、かかった量も少しですから、書類も書き損じばかりの、捨てる紙ですから、気になさらずに! それと余り彼女を責めないで! 前のめりでの失敗を、責めてはダメですよ」   この言葉にオーナーも少し恥ずかしそうに! 「それじゃアイスコーヒーをお願いします」 と青年の優しい声に 「ただいま、お持ち致します」 涙声の私は、その言葉が精一杯! 「それでは、せめてお勘定は、こちらで」 との、オーナーの問いに、 「わかりました!それではご馳走に成ります」の、爽やかな対応に 私は胸を撫で下ろしました。 出来たアイスコーヒーを今度は丁寧にテーブルに置くと「気にしないでね!頑張って」 の言葉を頂き 帰る時も、こちらの方を見て軽く手を挙げて 去って行かれたので、私は深くお辞儀をし 見送りました。 オーナーからも、いいお客様で良かったよ! タチの悪いお客様だったら大変だったよと 苦言を 「あぁ......やっぱり2日目は要注意だった」 どっと疲れた私は、 バーラウンジに変わる十八時には、 バイト先を後にした。 ホテルの前には大きな川があり舗道を拡張した 田舎には不似合いな 少しテラス風の椅子やテーブルが並ぶ この場合が私のお気に入り、 今日は特に、落ち込む事が多かったので、 少しぼーっと川面を眺めていました。 黄昏時と街灯とが微妙なコントラストを 描く時間 何気に川面を見ている青年がひとり...... 次の瞬間私は「あっ!あのお客様だ」と思った時には、既に青年の肩をトントンと 叩いていました。 「あっ!ウェイトレスさん?」 と覚えてくれてた事も嬉しくて、 ほんの数時間前だから当たり前?の微妙な 私の心の動きにも青年は、 「高校生じゃないかな?っと思ったけど、やっぱりそうだった」セーラー服姿の私を見て少し照れくさそうに言うと、また川面を見つめた。 「あの!お詫びを、させて下さい! っと言っても高校生なんで アレ、ぐらいしか出来ませんけど」 と自動販売機を指差す私に、 アレの言葉に頬を赤らめながら動揺を隠す 青年が少し可愛く見えた。 「じゃ!君の気が済むのなら」の言葉に私は 「ブラックで良いですよね」と自動販売機に 駆けて行きました。 「よくブラックってわかったね」 「だって!グラスを下げに行った時 フレッシュも、シロップも 使ってなかったから」 と言うと、感心したように頷いてくれた。 「改めてまして、昼間は済みませんでした! 私は佐倉美月と言います」 そうして頭を下げると 「ご丁寧にありがとう、自分は大山翔太と言います出張で3日間このホテルにいます!この地は、父親の故郷らしく幼い時に来た事が、あるらしいけど、余り覚えてないんだ」 と言うと、また川面を眺めた 私は気に成る事があり少し勇気を出して 「あの......お冷をこぼした時に退職願いって 書類を見て......会社辞めちゃうんですか? あっ!ごめんなさい! なんか仕事って大変なのかなぁって! 立ち入った事訊いてごめんなさい」 少し曇り顔を見せたものの笑顔で 「別に気にしないでいいよ!恥ずかしいけど 働きながら小説家を目指してたけど、 限界を感じて......仕事も何もかも、 リセットしようかなぁってね...... あっ! 夢一杯の女子高生に言う事じゃなかった」 「恥ずかしくないですよ! 私も歌手になる夢があって、 でも、お母さんの事考えると心配や不安で それでも夢は諦めたく無いし! 歌......好きだから」 「若いっていいな......輝いてて! 俺も好きだから! で、突っ走ってたのに...... いつの間にか......」 「大山さんって、そんな歳!なんですか?」 触れてはいけないパンドラの箱だったのか? 少し沈黙の後「30歳」の言葉! 「若いじゃないですか!わたし全然OKですよ」 言った後、 私は自分の言葉の重みを知って顔が、 真っ赤になった、幾ら歳上好みでも 初対面の人に 「ありがとう!佐倉ちゃん、面白いね! 勿論いい意味でだよ! 僕も立ち入った事聞くけど、 お母さんの事言ってたけど、 もしかして母子家庭?......」 私は小さく頷くと 間 髪を容れず 「俺もそうなんだ、9歳の時両親が離婚して」 「同じです!でも私は2歳の時なので 父親の顔を知りません、写真も無いらしく、 お母さんの口からは、父親の悪口ばかりで」 「俺も!なんで片親って片方の悪口ばかり 言うんだろうな、 俺なんて親父に似てるからって 母親から暴力受けてさ、 幼い時は親父からの暴力、 離婚してからは母親から...... だから両親を恨んで中学出て直ぐ親元離れて 東京暮らし四年は修行したけど合わなくて、 今の会社で10年、小説もその頃からで」 「私は......お母さんが大好き! だから......少しでも家計の足しに アルバイトして 歌のレッスンも頑張ってる!」 お互い気が付くと深い話に成り、 初対面とは思えない程、意気投合して 何か安心感や癒しのようなものすら 感じ始めました。 時計を見ると20時を過ぎ私は慌てて席を立ち 足踏みをしながら、周りを気にせず、 大きな声で 「明日また、ここで お話しに来ていいですか?」 の問いに、大きくマルの合図をする彼 私は楽しい物語が始まるような 予感を感じました。   昨日と同じ時刻に川面を眺める彼! 「川!眺めるの、好きなんですか?」 そっと声をかけると、見透かしたように、 「なんか水の音聞いてると落ち着くだろ?」 って 私は彼の普通の反応に少し不満も、 逢えた嬉しさを隠せない私は、 つい笑顔に...... 父親似の顔だと言っていた彼は、 写真を見せてくれました。 確かに似ているかも? たまたま、父親の故郷の出張だったので 特に意味もなく、持って来たとの事でした。 私は母親似で顔も声もよく似ていると 言われます そんなたわいのない話をしているうちに、 私は何時しか彼の事を、 翔さんと呼んでいました。 「こう遅いとお母さん心配しない?」と聞かれ 「お母さん仕事で夜は居ないから...... あっ!でも夜の仕事とかじゃ無いよ! 喫茶店に勤めてて帰って来るのは 22時から23時の間! だから食事は何時もひとり! でも、そのお陰で料理は、 結構上手なんですよ」 「俺もそうだよ!片親だとどうしても、 料理当番に成っちゃうよなぁ......」 「ねっ!ご飯食べに行こうか?」 私は目をパチパチしながら、期待に胸躍らせて 「うん!行く行く!」 着いた先はファミレスだったけど、食事をしながら楽しい時間を過ごしました。 「今回の出張は佐倉ちゃんのお陰で 有意義だった! 会社や夢を諦めようと悩んでたのが 嘘みたいだ! 元気貰ったよ!ありがとう」   お別れの挨拶みたいで少し寂しくなった私は、 「明日直ぐに帰っちゃうんですか?」と訊くと 「う--ん、仕事は早く終わったし 直帰だから、時間的には良いんだけど チェックアウトが 10時だから15時頃に出れば、 自宅には22時頃迄には着くから 其れ迄なら良いよ」 私は明日の予定を思い出し 「明日から試験だから 11時には学校終わるんで! お母さんの喫茶店で昼食は、如何ですか?」 「うん!わかった! 1時間程コーヒーラウンジで 時間潰すから 何時もの場所で待ち合わせ! これでいいかな?」 私は、約束をして貰った事が嬉しいくて お母さんが帰って来ると今迄の事や 今日あった事、食事をご馳走に成った事を 全て話しました。 お母さんも二つ返事でお店に連れて行く事を、 了承してくれました。   そして待ち合わせの場所! 翔さんを連れ出し母の店に急ぐ途中 翔さんが 「佐倉ちゃん、もしオーディションとかで、 こっちに来る事があったら、連絡くれたら、 部屋貸すからいつでも頼ってよ!」 サプライズな言葉に私は感動してお母さんに 話してみると、とっさに言った私は、 連絡先を交換したのでした。 暫く歩くと母の働く店に 「いらっしゃませ!」聞き慣れた母の声! 私に気が付き小さな庭園が見える席に 案内する母! 「美月の母です! 美月が粗相を致しまして 申し訳ございませんでした」 思わず慌てる翔さん 「娘から聞いて お父様が、こちらの出身と?」 緊張気味に、翔さんが 「はっ はい!幼い時だったんで よく覚えて無いんですけど」 「そうなの!しょうたさんって、 どんな字ですか」 「ひしょうの翔にふとしです」 「あっ!......そう!良い名前ね!」 「今日は特別なランチを用意してますからね! ゆっくりして行って下さいね」 「あっ!お母さん!翔さんがね、 オーディションで向こうに行く時、 翔さんの家、使って良いって! 部屋余ってるんだって」 そう言うと、 「それじゃ!その時は検討させて下さいね」 っと言って母は、その場を去った。 食事を済ませて、お母さんに 「じゃ!見送りに行くね!」 母は私に会釈した後 翔さんに、 「また機会があれば、寄って下さいね」 翔さんもまた、 「ご馳走さまでした!是非機会があれば、 また来たいです」っと会釈をする翔さん。   駅の改札を通ってホームへ向かうと 電車はもう来ていて、乗り込む時、 翔さんが 「俺!もう一度、夢に抗ってみる! 美月ちゃん見てたら本当に、そう思った」 「私も!夢頑張るから!絶対に!行くから!」 離れたく無い!一緒にいたい! そう想うと自然に涙が溢れた、 私は拭き取る事も出来ず、 ただその先を見つめるだけだったのです。 それは初めての恋の始まりかも知れない。
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