カナリアの巣立ち

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カナリアの巣立ち

出発の駅、天気も良く我が校からは、 海斗と私だけが、東京に向けて旅立つ。 私との間を、からかわれ赤くなる海斗を横目に 「お母さん!頑張って来る!」 「うん!私の事は心配要らないから、 夢を大切に前だけ見て頑張るんだよ! 翔太さんに宜しくね」   私は、頷くとつい涙が...... 空元気がばれてしまい誤魔化すように、 発車のベルに紛れ海斗より先に 私だけが、電車に飛び乗った!   お母さんに言えなかった 「ありがとうの言葉」 心に引っかかりながらも 故郷を後にするのでした。 ひとりだと色々と考えてしまう車中も、 海斗が気を遣って?良く喋る! とは言っても子供の頃の話しばかりで、 悲しむ間もなかった事は微妙に感謝! 駅に着く前に、メールを見ている私に 「駅!迎えに来るのか?」 「ううん!来ない! でも......鍵......持ってるから」 少し寂しげな瞳の海斗に 「色々......ありがとね!ひとりだと お母さんの事あれこれ考えて泣いてたかも、 海斗が居たから、気が紛れた!」 「俺も田舎に帰った時は、 覗くようにするから!」 「うん、ありがとう!」 駅に着くと二人は...... 「俺!会社に顔出さないとだから! 俺ん家お前の、所に近いから、会うかもな! なんかあったら絶対に言えよ...... 友達......だから......さ」 「うん!また......何処かで......バイバイ!」 こうして二人は別々の道を進んで行くのでした 半年ぶりの翔さんの家 鍵を開け中に入って 部屋に入ってみると、少しづつ送った 荷物が二つ三つ置いてあり、 カーテンやカーペットは、女の子ぽく ピンク系で統一されていた。 これを選ぶ時の翔さん どんな顔してたんだろう? それを想像すると自然に頬が緩む。 テーブルの上には「美月ちゃん、おかえり」の メモが置いてあり私は、何度も胸に押し当て、 愛おしさを感じるのでした。 少ない荷物を解きながら、 気が付くと外は真っ暗 私は、冷蔵庫を覗いてみると、 相変わらずガランとしている、 本当に、これで料理してるんだろうか 私は、定番のオムライス作りをしていると、 鍵を開けて翔さんが帰って来た。 「おかえり!」 「ただいま!ごめん、仕事長引いて遅くなった お祝いしようと思ったけど、何も無くて 取り敢えずショートケーキ買ってきた」 「いいよ、いいよ!私も冷蔵庫見て 出来そうな物でオムライスにしたから」 「実は冷蔵庫の中わざと、オムライスの材料だけにした、あの日のオムライス...... 美味しかったから」 「ご要望にお応え出来て良かった」 これから朝な夕なに、こんな毎日が続く事が 私の切なる願いでした。 養成所のレッスンも少しづつペースを つかみ始め厳しいながらも、 夢とお母さんとの約束の為と! 頑張っていた最中、 最近、翔さんの様子が...... どことなく元気が有りません。 夕食後、少し聞いてみたところ 小説の方がうまくいっていないみたい 「素人の私が言うのも何だけど、書けない時は無理しないで、違う事してみたら?」 「えっ、例えば?」 「うーーん!翔さん詩!私に詩を書いてよ! 短くてもいいから私に感じた事、思った事、 これまでの事短い言葉を繋ぎ合せて 一つの歌詞にするの! 翔さんの作詞で私がピアノを弾いて メロディを付けるの! 出来た歌を私が歌って! そして色んな所を周る!」 「うん、いいね!俺も簡単な楽器とか奏でて」 「そう!そう!」 「不思議だ!美月と話してると 出来そうな気がする 勇気をもらえる! また、頑張ろうって」 「もし私がね、落ち込んだ時は 翔さんが支えてくれるの! そうやってお互いが話し合って支え合って、 ゆっくり時間を紡いで二人にとって、 忘れられない かけがえのない想い出にするの!」 これが、これが私の本当の気持ちなんだよ。 翔さんとの生活も半年が過ぎた、晩秋の頃 突然!携帯が鳴り番号は知らないけど、 故郷の局番 恐る恐る、出てみると...... 「なんだぁ、おばちゃん!どうしたの?」 それは、よく面倒を見てもらってた、 お隣のおばちゃんから、 でも......電話の様子が...... 「ごめんよ、みいちゃん!口止めされてたん だけどそうも言ってられなくなってね、 お母さんが倒れてあまり良くないんだよぉ」 「えっ......」絶句する私に心配そうな翔さん! どうやらかなり前から、 具合が悪かったらしく ずっと私には言わないように 口止めされていたらしい、 倒れたのも三度目で 驚いたのは最初に倒れたのは 高校の時のオーディションに行った日...... 1年以上も全然気が付かなかった! ずっと私に隠してたんだ! 病気も進行が早く......末期......との 今回は三度目で意識が無く、 今度倒れたら医師からは危ないと...... なんで......なんで私には...... 「みいちゃんが前に怪我した時に行った 総合病院!覚えてるかい?」 「覚えてる!とっ......とにかく! 急いで帰るから」 「どうか......間に合って、おくれ!」 「時間調べた!今からじゃ夜行バスも 始発の新幹線も、あまり変わらない! やっぱ速いのは飛行機! 午前中には着けるよ!俺も着いてくから!」 「ありがとう......どうしよう......なんで......」 「今はそんな事言っても! とにかく明日明日だ!」 夜中は電話も鳴らず安堵したけど、 飛行機は携帯繋がらないから、心配するも、 逸る気持ちを抑えながら急ぎ病院に、 着いたのは10時半を過ぎた頃 椅子に座って落胆の様子の、 おばちゃんに嫌な想像しか浮かばない...... なんでこんな時に...... 私の顔を見て涙を浮かべ大泣きする、 おばちゃん やだ、やだぁ!言わないで! 悪い知らせなら...... 「みいちゃん!間に合わなかったよぉーー」 「そっ!そんなぁーー」 私達が着く2時間程前に、息を引き取ったそうで飛行機に乗る頃には、既に......   今日ほど、故郷が遠く感じた事は無かった、 出発する時は、応援してくれて笑顔だった お母さん 僅か半年余り、 あの時自分の涙を隠す為に電車に 乗り込み「ありがとう」が言えなかった。 こんな事ならあの時...... いっぱい泣いて、 いっぱいありがとうを言って、 いっぱい甘えればよかった。 なんで......なんで、私をひとりに...... お母さん! ひとりにしないでぇーーーー 身寄りの無い私は、 翔さんやご近所さんの計らいで、 うち内で済ませ荼毘に付すことができました。 「翔さん......人って......儚いね! 少し前迄あんなに元気で......それなのに、 あっと言う間に燃えちゃって 今は......こんなに......小さくなって」 遺品の整理をしているとやっぱり写真が無い 有るのは私のばかり お母さんの若い頃や、お父さんの写真も無い、本当に写真嫌いだったんだなぁ。 お母さん名義の通帳は、殆ど残高は無く...... 「私の夢の為に、結構お金かかってるし、 だから 私もアルバイトやお年玉、 ご近所さんのお手伝いでお駄賃もらったり 必要以外は全部貯金したから 使うようにと、お母さんに渡しておいたの」 恐らく此方も残高は余り無いはず! 「お母さんと二人で、頑張ってたんだね」 「うん、そうでないと苦しいし」 通帳の中を開くと、メモがヒラリと...... 「このメモを見ている時は、 お母さんがもう居ないと言う事でしょう、 美月!黙っててごめんね! 辛いでしょう、不安でしょう、でもね! この事で夢を諦めたりしないで! お母さんは若い時に夢を諦めてしまったの! 後悔も、たくさんした! だから若い頃の思い出は全部捨てたの! だから美月だけは、後悔せず好きな事に 真っ直ぐ進んで欲しいの。 お母さんからの最期の、お願い......ね!美月」 お母さん...... 更に通帳の中身を見ると つ......使ってない!1円も!何処までも、 私の為に 無理ばっかりして...... 「翔さん!ベッドやお布団! その他のお金は?」 「実はお母さんからもらった手紙に 電話番号が書いてあって、 ちょくちょくやり取りしてたんだ! 費用もちゃんと支払うと約束して! いいって言ったんだけどね、 今は貸し借り無い方がいいって」   私は考える!犠牲の上の夢って何なんだろう? 「初七日が終わるまでは、私!ここに居るから 翔さんは、一旦帰って!仕事もあるし」 「うん、じゃあ初七日の日には来るから」 「ありがとう」 「あの......念のため......だけど......夢! 諦めたり......しないよな!」 私は、返事が出来なかった、翔さんもまた 問い詰める事は、しなかった。 翔さんを見送り、役所等の手続き済ませて 誰も居ない静かな家、ひとり遺品の整理をしながら夢の事を考える...... 一度は諦めようとも考えたけど 母が命がけで支えてくれたから、 ここまで来れた! 捨てるのは簡単! 抗ってからでも答えは出るはず だったら...... もどって来てくれた翔さんと初七日を うち内で小さく済ませ、 おばちゃんに一周忌まで家の事を お願いして、私達は帰路についた。 都会の街並みや雑踏は、今の私には丁度良い。 こんなひとりの想いや、悩みなど、いとも簡単に掻き消してくれるから、 何かに没頭して居る方が 私には都合が良いのだ。 こちらに来て1年余りが過ぎた頃、 最近の私の振る舞いからダメ出しが...... やはり先生クラスになると、 気持ちの変化がわかるみたいで...... 「はっきり言って......このままだと厳しい!」 お母さんが亡くなってから、半年余り、 夢の形が未だ揺らいでいる私! それだけに耳にこたえました。 家に帰ってひとり...... ふと翔さんが晩酌に呑んでいる事を思い出し 私は、初めて呑んでみる事にした 冷蔵庫を開け今迄は、 アルコール系は大人の物と 興味もなかったけど、私も二十歳を超え大人! 色々と好奇心から、味見をしているうち内に 私は、どうやら酔ってしまったようで そこへ翔さんが帰って来たのでした。 「おかぁ......えりぃ......しょ......さん」 「ん?お前!酒......呑んだのか?」 「わ......るい......あたし......おとなですよ--」 「何やってんだよ!あぁ--ぁ! どんだけ呑んだ」 「あたしね--ぇ!さいの--ないかも」 「お--い!しっかりしろっ!」 私は翔さんに、両腕を掴まれ大きく揺られ、 頬を軽く叩かれた。 「いたいよ!しょうさん!」 「ごめん!お前が、しっかりしないから」 「ねっ!いたいこと!しょっか!」 「だ い て!い い よ......きょうは!」 「お前な!自分を大切にしろって! 言ったろ!」 「あたし!ひとりぼっち......なんだよ! このまま ゆめも......なくなったら......あたし...... どこにいけばいいの? ねぇ......しょうさんの......およめさんにして」 「お前さ!キスの時も、そうだったけど、 結び付きが無いと一緒にいられない訳! 俺は、お前を、応援するって決めたんだよ!」 わかってる......全部!酔ったフリしてただけ...... 翔さんの言葉......私に、全部......響いてるよ! 「好きなんだもん!翔さんの事! 好きなんだもん」 自然に涙が、こぼれる。 「辛い事に心が折れそうになって 迷ってるだけだよ でも......お前が不安なら...... 一周忌が済んで整理が付いたら...... ひとつになろ......約束するよ」 「翔さん、ありがとう!」 そして私達は、誓いのキスをしたのでした。 ありがとう、翔さん これで私......前に進めそう。
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