カナリアの涙

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カナリアの涙

海斗に私の初めてを捧げたベッドで朝を迎え、 これで、これでいい!...... 忘れられる......翔さんを 忘れられる......忘れようと...... そう、思ってた! なのに、私の中にぽっかりと空いた 心の穴は...... 海斗......海斗じゃ、埋まらなかった。 私の思いは知らず、優しく声をかける海斗 「もし帰る場所が無いなら、此処に来いよ」 「ありがとう......翔さんの所から...... 残りの荷物取りに行かなきゃ......だし...... 事務所にも」 「そっ......そっか......ゆっくり決めるといいよ」 「鍵!植木鉢の下なっ!じゃ......行ってくる」 「うん、いってらっしゃい!」 何もしていない翔さんと迎える朝はワクワク、 ドキドキして一緒に居るだけで満たされるのに   私の事を愛してくれている、海斗と...... 結ばれてそれだけで愛情は満たされている 筈なのに...... どうして? どうして心は翔さんを欲しがるの? どうにもならない、 どうにかしては、いけない! 言葉とは裏腹に、止めどなく、溢れる涙 翔さんの所には戻っちゃいけない! こんな気持ちでは海斗の所にも居られない! 私の足はいつしか事務所に向かっていた。 寮に入れてもらえないか?頼んでみようと。 寮を紹介され寮母さんに会いに行く事になり 「初めまして!佐倉美月です 宜しくお願いします」 挨拶をすると、少し小太りの如何にも 寮母さんという感じの、優しそうな人に、 「話は聞いてるわ、ちょっと 不思議ちゃんみたいなミキって子が いるから相部屋だけど我慢してね」 寮が空いてただけでも奇跡!贅沢は言わない! 「はい!ありがとうございます!」 鍵をもらい部屋のま......少し緊張するけど 勇気を持って......トライ! 「初めまして、佐倉......美......月です......」って 誰も居ない?取り敢えず荷物だけ置いて 翔さんの所に残りの荷物取りに行かなきゃ!   翔さんの家......いきなり飛び出して...... 携帯切っちゃったし...... 携帯の電源を入れてみた! 凄まじい数の着信......うぅ......鍵を開けて 「た だ い ま--」 翔さんは会社だから......当たり前......か! 僅か1年半余りでも、想い出の詰まった、 私にとっては、忘れられない部屋...... 荷物の送り先、感謝の想い、旅立つ約束を、 手紙に記し、私は部屋を出た。   手にした鍵は私にとって宝物だった、 鍵の音は幸せな想い出が、今も私の胸に残る、 なのに......今日の音は......冷たい音 手紙と一緒に入れた鍵を想い出と共に、 そっと郵便受けに差し入れた! 滑り落ちる、別れの音が...... 私の心に寒い冬の訪れを、 告げて行ったのでした。 寮に戻ると、 ルームメイトのミキが帰っていた。 「佐倉美月と言います、宜しくお願いします」 「あっ、宜しく!寮母さんから聞いてるから」 特に私に興味がある訳では無く、 何も聞かない、ルームメイト! それはそれで私にとっては都合が良い...... 出来れば言いたく無いかも......だから! レッスンでも時折、同じくするルームメイト 歌唱力は抜群で、 私など太刀打ち出来ないくらい 「凄い歌唱力だね!尊敬しちゃう!」 「ありがとう!歌......好きだから!」 「でも、あなたも負けて無いよ!」 お世辞でも嬉しい!自信も揺らいで方向性も、 見失いそうな状況を繰り返す毎日だから。 「ねぇ!あなた私の先生に就けばきっと! もっと上に、行けると思うよ! 渡米申請書出してみたら!」 「渡米?私みたいな、駆け出しが......」 「多分そう言うと思って書けるところ! 書いておいたから、後は名前書くだけ! 簡単でしょ!」 「う--ん、ダメ元でやってみるか!」 翌日、事務所に申請書提出......すると...... なんと!申請が通り二人でアメリカに...... ルームメイトのお陰で急に夢の扉が開いた! 「ありがとう!やってみるもんだね!」 「運も実力の内だよ!」 あの日、「事務所の寮に住む事になったから」の連絡を入れた後は、お互い連絡を取り合って無かった海斗に、報告をしないと! 待ち合わせ場所、普通に話し掛ける海斗に安堵と後ろめたさの複雑な感情をお互い隠しながら 「久しぶり!元気してたか?」 「うん......ありがとう!」 「実は急だけど、 アメリカに行く事になった...... ルームメイトの女の子の先生に レッスンの依頼に行く事に...... 私自身チャンスだし!行って来るよ!」 「そっか!気に......してた、 あんな事の後だったし 夢......どうしたかなぁって」 「行って来いよ!思いっきり頑張って! それで...... もし......ダメでも、お前の帰る場所! 俺が守っててやるよ! いつでも帰れる、止まり木をなっ!」 「本当に、ありがとう!」 「私!海斗に、隠してた事がある...... あの夜の......事だけど...... 本当は翔さんを忘れるために、 海斗に......抱かれた! ごめんなさい」 「わかってたよ......そんな事! 何十年、お前の事を 好きだと思ってんだよ! そんな事......わかってたさ でも、お前は、俺に......それでも俺に...... 初めてをくれた! その気持ちを大事にしたい その気持ちだけで、お前を待てるんだよ!」 「自由に羽ばたいて来いよ!恋も夢も! それで...... 帰る場所が無くなったら、俺が拾ってやるよ! 待つのには......慣れてるからさ! 気にするな!」 海斗は目に涙を、いっぱいためて...... 「なんで海斗が、泣くんだよ」 「悪りぃ!カッコ悪いなぁ......俺!」 「ううん!今迄で一番!カッコいいよ、 海斗!」   二人は泣きながら、 そして照れ笑いしながらも、お互いを、 見つめ合い抱きしめあったのでした。 「海斗......行ってきます!」 「おっ!」 翔さんとは事前にアメリカに行く事を告げ 空港で会う約束をしました。 「心配してた! でも夢!諦めて無くて、良かった」 私は軽く頷くと、覚悟を決めて翔さんを見る。 「翔さん沢山の想い出と...... いっぱいの愛を......ありがとう! 結果は愛しちゃいけない人だったけど それでも......私は......幸せだったよ」 今迄の私なら......ここで最後にするからと 翔さんとしてのキスを欲しがったと思う。 そして翔さんと決別し、兄と思うからと言って 「翔さん!お別れです。 私の中で、お兄ちゃんに 変えないと......だから......振り向かないから! もう......絶対......振り向かないから!」 「幸運を!」 そして二人は背中合わせのまま、 振り向く事無く 一点を見つめ離れて行くのでした。 「振り向いちゃダメ!振り向いちゃダメ!」 何度も何度も繰り返しながら、決意と裏腹に 涙は止めどなく溢れる。 私は悲しみを背にターミナルに消える。 そして旅立ちの飛行機が 今......舞い上がるのです。 目的地に着くとミキの案内でホテルに! ここから先生の家は近いらしいので明日二人で行く約束をして各部屋に別れた。 翌朝ベッドの上にミキからの手紙が...... こちらの友達と会うから、一人で頑張って! 「もう!なんて無責任な」 怒ってみても結果は変わらないので、 チャレンジしか無い、 道は簡単だから家は直ぐにわかった。 日系アメリカ人のジェームズトウヤマ 恐る恐る、ベルを鳴らすと二重扉の奥から メイドさんが......日本語ができる人で良かった ジェームズトウヤマさんご本人?だろうか、 歳は30過ぎくらい? 背は高く細身の神経質そうな人 「あの......ミキの紹介で、先生の指導を受けたくて日本から来ました!」 「ん?弟子を取ったり指導したりはしてい無い 帰ってくれ!」 「でも、ミキから......」 言い終わら無いうちに ドアを閉められてしまった。 だから......着いてきて欲しかったのに! 渋々部屋に戻るとミキが居た! 「ひどいよ!ミキ!私にとって大事な事なのに 友達優先して......」 「ごめん!ごめん!」 翌日、気をとりなおし ミキと一緒にベルを鳴らす 昨日と同じ様にメイドさんが...... すると犬の鳴き声が......ミキは鳴き声のする 方向を見に行き「マックス」と言って犬と じゃれ合ってる内に 犬と一緒に建物の中に...... 「あっ!えぇ!」 「また君か!しつこいぞ!」 「今日はミキと一緒で! 今犬と一緒に建物の中に」 「私の家に犬はいない!変な事言うと 警察呼ぶぞ」 またも、取り合ってもらえない! 「それにしても肝心な時にミキが居ない!」 部屋に戻るとミキが戻って来てた! 「何してんのよ!私は遊びに来たんじゃ無い! 人生を賭けに来たの!いい加減にしてよ」 そう言うと部屋戻った! 暫くすると1枚の絵葉書を持って戻って来た! 「何?これ!」 1枚の絵葉書!日本の桜が描いてありホワイトペンで日本語で「さくらの再会」と書いてある。 「これをジムに渡して!必ず本人によ」 いつになく真剣な眼差しに、少しキツく言い過ぎたかしらと思い少し気まずくなってしまい 「でも、本人が居なかったら?」 「玄関のボックスの上に レタートレイがあるから、必ず一番上に、 置かせてもらう様にメイドさんに、 お願いする事!絶対だよ!」 「ん!うん、わかった」 余りの迫力にそれ以上は言えなかった。 帰国の日!またも、ミキが居ない! とにかく絵葉書を持って三度目の正直? メイドさんも、もう笑うしか...... 「今日はご主人様は釣りに出かけています。 戻るのは2時頃かと」 「どうしよう! 午前中の帰国だから間に合わない あの? この絵葉書をレタートレイに置かせて 頂いても良いですか?」 「OK!」   私は絵葉書を置くと仕方なく帰国の途に着いた 折角覚悟を決めて来たのに、 恥を覚悟で帰らなければならない...... それにしてもミキは...... チケットが無かったけど、先に帰ったのかなぁ 「絶対に許さない! 1カ月夕食係でも足りないわ」 帰国して事務所に向かい叱責を覚悟で、 「ただいま、帰りました!」 「あの、ミキ帰ってませんか! 酷いんですよ彼女」 「ミキ?誰?」 「誰って私と一緒にアメリカに行った」 「アメリカには、君一人で行ったんだよ」 「えっ!でも申請は二人で...... それに私の様な駆け出しが、 アメリカに行けるなんて?」 申請書をマジマジと見るスタッフ! 次の瞬間ニコッと笑顔で! 「署名欄見てみなよ!」 「ジェームズトウヤマ」 彼は......いや! このお方は、このプロダクションの創設に 尽力下された方!言わば絶対権力者! この方のサインがあったから行けたんだよ! 今日そのジムが来日するから空港まで 迎えに行くけど君も行くかい! 「はっ!はい、喜んで」 「まっ!君の為に、来日するんだから、 君が行かないと始まらないけどね!」 私は空港に向かう車の中で 「あの!ジェームズさんって 30歳くらいの少し怖そうな方ですよね?」 「ええっ!初老と言ったら失礼だけど、 60は、軽く超えてるよ!」 私は何がなんだか?夢でも見てるのだろうか? 空港の到着ロビーひとりの男性が、こちらに 「ハーイ!ジム」 「ハーイ」 「御紹介します!佐倉美月さんです」 「oh!お母さん、ミキにそっくりだ! お母さんが亡くなったと聞いて驚いた! 君のデモテープを聴いた時も ミキが歌っているのかと思ったよ!」 「君に見せたい物が......」 「そっ!それはさくらの絵葉書! 私が帰国前にミキから渡された......」 「ミキ......美樹......佐倉美樹......お母さん?」 ミキは若い頃の、私のお母さんだったなんて! どうしよう! お母さんが、ずっと傍にいてくれた ずっと応援してくれてたんだ! 「さくらの再会は、佐倉......そう! 美樹との再会の約束だった! でも約束は守られてなかった! しかし数十年の時を経て娘の美月に...... これは奇跡だ、きっと天国の美樹が 導いてくれたんだよ!美月!」 私は嬉しいさと温かな涙に包まれた。 ありがとう、言えなかったありがとうを今! お母さん!ありがとう。 今度こそ本当に アメリカに指導していただく為に 数日後、空港に向かう車中! 「お別れは済ませたかい?」 「はい!」 「ジム!少し寄って頂きたい所が」 「いいよ」 「そこを右に曲がって左に寄せて下さい」 想い出の詰まった部屋! 見覚えのある後ろ姿 近寄って、声をかけたい......でも...... 「行きましょう!ジム!」 「もう......良いのかい?会わなくても?」 私は小さく頷く! ゆっくり走り出す車! ミラー越しに写る部屋がだんだん 小さくなって、 ひとすじの涙が頬を伝い窓から差し込んだ風が 頬を優しく拭き取り はるか後ろのあなたに運んでくれたのか? それを見届ける事は......もう...... 私は窓を閉めると......ある歌を口ずさんだ 「あぁ、その歌......よく美樹も口ずさんでた」 「物心ついた頃から、よく母が歌ってたから 覚えちゃって!だんだん好きに......」 「確か自由曲もその歌だったね」 「昔の日本のアイドルの歌で、 好きな人の元から 夢の為に勇気を出して旅立つ女の子の歌? だったかな?」 「はい」 「今の美月にぴったりだね!」 「さぁ!行こう!私達の夢の為に!」 「はい」 多くの涙を流し多くの人に背中を押して もらった、そのどれもが私の中で 色ずき輝いている、美しい想い出 ありがとう お母さん ありがとう 海斗 ありがとう 翔さん say goodbye goodbye my love -おわり-      
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