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彼も彼で大学卒業後の就職がうまくいかず、現在は職を探していて大変そうだったけれど、私には優しかった。
私が原稿の出来に納得いかず落ち込んでいた時は、優しく抱きしめてキスをしてくれた。
ーーそうだ。私は誠くんがいたから。
誠くんの優しく愛の詰まったキスがあったから。5年以上スランプもなく、小説を書き続けることが出来たのだ。
店員がビールのお代わりを持ってきたので、私は例によって一気飲みする。樹さんが冷たい視線を私にあびせた気がするが、知らないふりをした。
ーーああ。酔いが回ってクラクラしてきた。もともとそんなにお酒は強くない方なのに、もうジョッキで4杯も飲み干してしまった。
私は火照った顔をテーブルに突っ伏した。そして顔をあげずに死にそうな声でぼやく。
「もう私ダメ……ほんとに……もう書けないよお……」
「ーーそりゃ困るんだが」
はは。そりゃそうだろうなあ。樹さん私の担当だもんなあ。でももうどうでもいいや。何もかも。なんだか眠くなってきた。
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