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誠くんだった。最近まで恋人という関係だった、大好きだった彼。
少し前の私なら、誠くんからの着信なんて飛び上がって喜ぶ程の出来事だった。しかし今の私は、「何か用かな?」という疑問しか湧かなかった。
遠い昔のことにすら思えた。誠くんからの電話という現象に「飛び上がって喜ぶ」ということを、過去の私がやっていたということが。
誠くんに対して、私はそこまで興味を失っていた。
「ーーもしもし。誠くん?」
だから私はあっさりと通話ボタンを押す。なんの期待もなく、「何か用かな?」という疑問を、ただ解消するために。
『 あ! 千春ー! 元気ー? 今大丈夫? 』
スマートフォンごしに聞こえてきたのは、以前のように明るく爽やかな誠くんの声。
恋人同士だった時と同じような。二人の間には別れなどなかったかのような。懐かしい、とは思ったけれど不思議とときめきはなかった。
「あ、うん。元気です。今大丈夫だよ」
私は淡々と言った。
『そっか! それならよかったー。今新宿に来てるんだけど、このあと一緒に飯でも食べない? 』
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