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「俺が千春を諦めるわけないだろ。だけど、千春みたいな意地っ張りにはこうした方がいいと思って。ここまでうまくいくとは思わなかったけどな」
「はあ!? ちょ、ちょっと! 何それー! ずるい! さっきの無し!」
「ーー今さら遅い」
樹さんの笑みに、艶っぽいものが混ざった。滲み出る色気に、私は怯んでしまう。
「もう絶対離さないからな。ーー千春は俺のものだ」
真っ直ぐに深く私を見つめて、噛み締めるように樹さんが言う。聞いた瞬間に湧き上がってきたのは、絶大な幸福感。
彼の策略にはまってしまった悔しさなど、一瞬で遥か彼方へ消え去ってしまった。
「樹さんは私のもの」
そして私も負けじとそう言い聞かす。誰にも渡すものか。この大きな手も、引き締まった身体も、私を包み込む温もりも。熱く情熱的な口付けも。全部私だけのものだ。
樹さんが私の頬に顎と後頭部に手を添えた。そしてそのままゆっくり顔を近づけてくる。一瞬戸惑ったけれど、私は瞳を閉じた。
そして感じたのは、柔らかく、熱く、優しい唇への愛しい感触。今までの、どんなキスよりも、今回のそれは体の底から幸福感が湧き上がってくるものだった。
ああ、やっぱりこれだ。私はもう、これがないと。生きていけない身体になってしまった。
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