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彼は私の傍らに立ち、ふざけたような笑みを浮かべた。
「ーーなんだ。つまんない」
「は……?」
「昔はキスしてくれないと書けなーい!なんてかわいいこと言ってたのにさ」
恥ずかしい過去を掘り起こされ、私は顔を赤くすると同時に非難の目を樹さんに向ける。
「あ、あれは! ほら! いろいろあったからそうしないと仕方ない状況で!」
「仕方ない? 俺にキスされると、なんでその仕方ない状況が打開できるわけ?」
「う……。うるさーい! もうあの時のことは忘れてよー!」
私は軽く樹さんの胸をポカポカと叩く。彼とは結婚してしばらく経つというのに、相変わらずこういったからかいには翻弄されてしまう。
ーーあの頃は、昔の恋人に捨てられて、意気消沈していて、自分に自信がなくなっていて。私はきっと、誰かに愛されているという実感が欲しくて、キスを求めてしまったんじゃないかと今では思う。
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