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少女だった頃から面倒を見てくれている樹さんは、私にとってはお兄ちゃんのような存在で、恋愛対象ではないのである。
まあ、たぶん樹さんも私のことを妹のように思っているだけだろうし。
「今度の単行本に載せる書き下ろしの中編。締切明後日だけど」
「あー……そうですね」
「終わった?」
「も、もちろん終わったけど!?」
有無を言わさぬように、じっと見られながら言われて、裏返る私の声。
ーーああ。バレたなこりゃ。
「きゃっ!?」
掴まれていた手首を引っ張られ、私はよろけてソファに倒れ込み、樹さんに抱えられる。
恐る恐る私は眼前の樹さんの顔を見る。怒られる、と思った。
ーーしかし。
「ーー何があった? 筆が早い千春がまだ終わってないなんて」
樹さんは甘く優しい声で私に言った。
ーーその声を聞いた瞬間、堪えていたものが爆発する。
瞳に涙が溜まり、視界に映る樹さんの顔が歪んだ。それでも涙は止まらず、次々に頬を伝っていく。
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