やっぱりキスが欲しいです

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まあ、それは置いといて、今樹さんと会うのはかなりまずい状況なのだ。 もうすぐ雑誌の連載小説の締切が迫っているというのに、案の定、あのあとからまったく筆が進んでいない。 もしそれを樹さんが知ってしまったら。ーーキスされてしまうではないか。 とりあえず編集部のデスクを見渡した感じだと、ラッキーなことに彼は不在のようだ。よし。今のうちにさっさと帰ろう。 小説が書けない今の状況がヤバいことには変わりないけれど……とりあえず今は樹さんから逃げることが最優先である。 私はそそくさと編集部のフロアから退出しようとした。ーーが。 「あれ、千春ちゃんじゃん。ひっさしぶりー」 背後から声をかけられ、一瞬樹さんかと思ってびくりとしたが、このテンション高い喋り方はあの男ではない。 「ーーああ。秦野さん。お久しぶりです」 振り向くと、そこに立っていたのは樹さんと同期で編集部の人間の秦野さんだった。 28歳にしては童顔だが、アクのなく整った顔立ちは、歌って踊るアイドルグループのメンバーを思わせる。どこか影のある樹さんとは違った、“陽 ”の雰囲気が魅力的なイケメンだ。
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