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千春の小説を読む前に、授賞式で彼女の姿を見た時は唖然とした。
チビで折れそうなくらいに細い千春は、少し前までランドセルでも背負っていたんじゃないかと思えてしまうほど、幼い見た目だった。
極めつけは、分厚く大きな色気のないメガネ。最低限メイクはしていたけれど、そんなこと意味が無いほどに、そのださい眼鏡は彼女の顔面を覆っていた。
こんな子供が新人賞かよ。話題作りのために受賞させたのか?日本の文芸も終わったな。
彼女の見てくれで、俺は勝手に日本の小説界の将来まで憂えたのだった。
しかしそれはまったくの的外れだった。授賞式のあとの立食パーティーで、とりあえず担当として千春に挨拶しに行った俺。
「初めまして。君の担当になった樹ーー真壁樹です。よろしく」
「よろしくお願いします」
千春は、いきなり眼前に出現した、長身で5歳も上の俺に対して、まったく物怖じする様子もなく、柔らかく微笑んだ。
18歳にしては、そして実年齢よりも遥かに幼く見える見た目にしては、肝が据わっているみたいだな。それが千春の第一印象だった。
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