キスが無いと無理なんです

1/30
1042人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ

キスが無いと無理なんです

「うん。今回も面白くなりそう。OK」 私の担当編集である真壁樹(まかべいつき)は、いつもの気だるそうな表情を少しだけ和らげた。 ミステリー作家である私ーー神坂千春(かんざかちはる)の次回作は、女性誌で連載する恋愛を絡めたミステリー小説。 今日はその内容の打ち合わせ。私の家の近くのカフェ兼バーに、夕刻私達は訪れていた。 数日前に書き終えたプロットは問題がなさそうで、私は安心する。そして私はソファから立ち上がった。 「よかったよー、大丈夫みたいで。ーーよし、じゃあそういうことで!」 私はくるりと樹さんに背を向けて、そそくさとその場から立ち去ろうとする。 「ーーって、おい。待てよ」 しかし手首を樹さんの大きな手でがしっと捕まれ、それを阻まれてしまった。 う、と小さく声を漏らし、私は恐る恐る振り返った。樹さんは不敵に笑っていた。しかしどこか含みを込めたような、黒い笑み。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!