君の全てを手に入れる

1/14
1042人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ

君の全てを手に入れる

千春との出会いは5年前ーー俺が大学を卒業し、就職したての春だった。 就職の直前は、映画配給会社の父親にしつこく自分の会社への入社を勧められていた。一人息子の俺に、跡を継いで欲しいようだった。 しかし俺はその誘いに首を縦には振らなかった。父親のことは嫌いではなかったけれど、生き方はあまり好きではなかった。 でかい会社の社長という、父親の窮屈で多忙な毎日を幼い頃から間近で見ていた俺は、「ああはなりたくない」と、ずっと思っていたのだ。 そんな俺に父親は最初は難色を示したが、一代で会社を起こし大企業に成長させた父親は、そこまでお堅い人間ではない。 俺には好きなことをやって欲しい、まあできれば跡を継いで欲しいけれど、というスタンスなのだ。 そして俺は、母方の祖父が社長をしている青葉社に入社した。幼少の頃から内向的だった俺は、小説の世界に入り込むのが何よりも至福の時間だったのだ。 入社してすぐ、ミステリー部門の編集部に配属された俺。そこで初めて担当を任された作家が、新人賞を受賞したての、女子高校生作家、神坂千春だったのである。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!