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4.野原
「着いたぞ」
ブレイズの声に視線をめぐらせると、鬱蒼とした森の中、まるでそこだけ切り取られたように野原になっていた。
「すごぉ~い!」
今まで通ってきた道と違い、木々の枝に阻まれることなく柔らかな月光が降り注いでいる。
その光景に、思わず感嘆の声を上げて駆け出すパティス。ここなら、少々ブレイズから離れても大丈夫だろう。視界をさえぎるものもないので彼を見失うこともなさそうだ。
野原の真ん中まで走って立ち止まると、緑の匂いを胸一杯吸い込んで、清々しい気持ちで夜空を見上げる。
空では、まん丸の月がちょうど中天に差し掛かったところだった。
「お、おい! 足元、無闇に踏んづけるんじゃねぇぞ!」
そんな彼女を追いながら、少し慌てた声音でブレイズが言う。
「足元?」
パティスの足元にはごくごく短い、彼女自身の影が落ちていた。
その周りに広がるのは鮮やかな天然の植物絨毯。
月光に照らされて、色彩まではっきりと見て取れる野原には、緑の葉っぱに混じって瑞々しい赤が見え隠れしている。
よく目を凝らしてみると、それは野原一面に実った野イチゴだった。
「食っていいぞ」
その実を見つめて瞳を輝かせるパティスに、苦笑交じりでブレイズが許可を出す。
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